4章

夕食の時、彼が今日友達と遊んだという話をしてくれた。その友達は、兵士になりたいそうだ。皆で戦争ごっこをしたらしい。


私はその時、不意に思い出したかつての戦争の話をした。


◇◇◇


「急いで。はやく怪我人を」


「彼は敵兵ですよ!」


「いいから!早く!」


魔法使いたちが魔力を撃ち合い戦争をしている。塹壕に隠れた魔術兵士が、もうひとつ前の塹壕へ撤退している。


その時現場にいた医師たちは、敵味方気にせずに助け、千人を救った。


そして三年間の強制労働に送られた。医師の指揮官は、処刑された。法の名のもとに殺された。皆は法を非難しなかった。処刑された人を、非難した。


ただ敵を助けただけで。命をたくさん救ったのに。


その戦争で、すさまじい魔導爆弾を打ち込んで千人を殺した兵士は、英雄となった。法の名のもとに勲章を与えられた。


仲間も巻き添えにしたのに。命を奪ったのに。


みんな自分が正しいと信じ込んでいた。根拠なんてなくても、信じ込んでいた。


その時魔導爆弾を打ち込んだのが私と言うことは、言わなかった。


彼は静かに聞いていた。彼は聡明だ。おそらく、この話で私が何か隠していることぐらいわかるだろう。


だが彼は聞かない。


「そうなんですね・・・」


彼は、私の言葉と一緒に、固いパンを咀嚼した。わが弟子にはこれを教えないといけない。


命の価値を知るためには、この知識が必要だ。人の都合で、簡単に命は消えることを。そして、正しい事がいつでも正しいわけではないということを。


食事が終わった。弟子は机を拭くと皿洗いを始めた。ただ、深く考え事をしている表情だ。


私は窓辺で本を読んだ。そろそろ、旅に出るころかもしれない。こういう時に旅に出れば、きっと多くの知識を吸収できるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る