第11話『友達は俺の後輩に興味があるそうです』
翌日の朝、目が覚めるとキッチンの方から、香ばしい焼き魚の匂いが漂って来た。
それと同時に俺のお腹の虫が鳴る。お腹の虫は正直者で、俺に何か食べてくれと訴えかけてくるかのようだ。
『手助けは必要ないから。私が作らないと意味がないもん!』
と神凪さんの気遣いを断っていた。気持ちだけで十分有り難かったのだが、料理を諦めさせようにも二葉は頑固で、一度言い出したら最後までそれを成し遂げようとする。
悪い意味ではないけど、俺は二葉のその根性には勝てない。まだ俺がガキだった頃、少年野球に入っていた時があったが、どんなに練習を重ねても上達する事はなく、結局半年で少年野球を辞めた。
運動が得意な二葉が入れば、監督から期待されていたに違いないだろう。過ぎたことを今悔やんでも仕方ないが、もう一度野球を始めてみても良いかも知れない。
一人野球なら誰にも迷惑はかからないだろう。
んしょっと身体を起こすと、俺の下半身に違和感を感じた。さっきから何かが当たってる気はしていたが、そこまで気にはならなかった。
おそるおそる、視線を下半身に向けると分かりやすく、一箇所だけ膨らんでいた。
ごくりと、固唾を呑み込むと一気に布団を捲ってみた。
「二葉!? お前、何してるんだよ!」
「ん……」
眠たそうな目を擦りながら、俺の下半身に頭を乗せている二葉が俺に気付きニコッと微笑んだ。
悔しいが、その笑顔に俺はどうやら弱いらしい。微笑んだ途端、また彼女は安眠しようとする。
ハッとまた我を失いかけていた自分の頬を、両方の平手でパンパンと二回叩く。
「おーきーろー!」
俺の下半身に頭を乗せ安眠している彼女の身体を、ゆさゆさと揺らすがなかなか起きない。
仕方がない、奥の手を使うか。
「残念だ……実に残念だよ。折角、甘くて甘くて堪らないお菓子があるんだが、起きないなら仕方ないなぁー。学校に行く前に、神凪さんと二人で、味わいながら食べるかぁ!」
「お菓子! 二人だけでとかズルいです!」
どう考えてもわざとらしい俺の演技に、まんまと引っ掛かったぞ、こいつ!
もう少しだけ意地悪してみるか。
「あれ? 二葉はまだ眠たいんだろ? お菓子は俺と神凪さんの二人で食べるから、お前はまだ寝てて良いんだぞ?」
俺はニヤッと口角を上げ、二葉をからかってみた。
すると二葉は急に目に涙を浮かべ、俺の胸元をぽこぽこと叩き始めだ。
「先輩のばかばかばか!」
「痛い痛い! お、俺が悪かった!」
完全に二葉を怒らせてしまったのか、俺の大事なとこに何かが迫ってきた。
そして……。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
ガチャ。
「二葉ちゃん、渚先輩! 朝食の準備が出来ましたよ……って、え? 先輩、どうしたんですか?」
「俺の……大事……な……部……分……が……くっ」
「渚先輩大丈夫ですか!? 二葉ちゃん、渚先輩が大事な部分とか言いながら手で押さえて呻いてるけど、何かあったの?」
「さあ?」
二葉から足蹴りを喰らった俺の、こかーんはピクピクと痙攣を起こしながら悲鳴を上げていた。
◇
「よおよお! おっはYO! 朝から暗い顔してどうしたYO!」
「烏丸か……」
朝教室に入ると真っ先に話し掛けて来たのは、友達の一人、烏丸隼人だ。烏丸はクラスのムードメーカーで、友達も多い。
お昼休みは、隣のクラスから誘われたり、部活の助っ人を頼まれたりしているようだ。
そして朝からDJって、元気がありすぎだろ……。
「なんだYO! 俺だと嫌なのかYO!」
「そうじゃない。今はそんな気分になれないというか……」
「だったらYO! 俺に相談しろYO!」
こいつは一回絡んで来るとめんどくさい。合コン前の時もそうだし、今もだ。
こないだまで推理ドラマにハマっていたくせに、今度はDJにハマったらしい。
何でもかんでも、テレビに影響されすぎだ。仕方がない。俺もたまには付き合ってやるか。
「……分かったYO! 遠慮なく烏丸に相談するYO!」
「イイネ! ノって来たぁぁぁぁ!」
「烏丸君煩い!」
「はい……。何で俺だけ怒られたんだ……」
「……」
「まさか……あいつ、俺に気があるのか!」
なんというポジティブ思考だろうか。二葉もそうだが、烏丸もかなりのポジティブだ。
クラスの女子から注意されたというのに、すぐに切り替えが出来るこいつが羨ましい……なんて思ったりするが、口には絶対に出さない。
「風間ぁ……そんな顔してるとモテないぞ?」
「……元々こういう顔だよ……」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもない。それよりあの二人は?」
「さっき呼び出しを喰らって、海根先生と話してる。学校にエロ本を持って来てる事がバレて、没収されてたからな」
「バカだろ……」
俺の友達三人はえっちな話が大好きだ。学校にエロ本を何冊も持ってきては、友人と見せ合いをしている。
だから、いつか先生にバレてもおかしくはなかった。持ち物検査は、一ヶ月に二回ぐらいあって、いつ持ち物検査があるかなんて先生が教えるわけがない。
何故ならそれを教えてしまったら、持ち物検査の意味がなくなるからだ。それが分かれば、皆が校則違反をするかも知れない。
それを分かった上で、あの二人は学校に関係のない私物を持ってきていた。
自業自得としか思えない。
「あの表紙に載っていたモデルの子可愛かったなぁ! 胸も大きかったし。あ、でも俺は花ちゃんもタイプだな。背が低くて可愛いし! なぁ、そうは思わないか?」
「何で俺に聞く」
「それは勿論、お前の後輩だからだよ。花ちゃんを見てるとさ何かこう……守ってあげたくなるんだよなー」
烏丸は意外と惚れやすいタイプのようだ。こないだの合コンで二葉を連れて行くのは失敗だったかも知れない。
「後さ、神凪栞ちゃんだっけ? ここの高校に転入して来たんだろ? 俺の女友達から聞いた」
「合コンの時に居た……」
「そうそう!」
俺が答えると烏丸は二回頷く。そしてこいつの口からは信じられない言葉が出てきた。
「(それで……同棲してるってマジ?)」
ガタッ!
耳打ちとはいえ、突然そんな事を言われたら誰だって反応せずにはいられない。
「な、何を言い出すんだ? いきなり……」
俺の額からは、汗が頬を伝って垂れてくる。そして高鳴る心臓の鼓動を右手で押さえながら、次の言葉を待っていると、急に烏丸は笑い出した。
「ははっ。まぁ、冗談だけどな!」
「……は?」
「花ちゃんだけじゃなく、転入生の神凪さんとも一緒に登校してただろ? だから少しお前をからかってみたら、まさかの反応だったからこれがマジだったら面白いよなーって! あれ、風間どうした?」
心臓に悪い冗談だ。バレたかと思って一瞬ヒヤヒヤしたぞ!
烏丸は冗談のつもりで言ったらしいが、実際、神凪さんと同棲を始めているのは事実だ。って言っても、そこには二葉も居るから二人っきりではない。
昨日は突然だったから考える余裕もなかったが、今思えば学校側にバレたら終わりだ。
それに俺の高校は、勉強が疎かになるといけないからという単純な理由で、恋愛は禁止にされている。
それがもし、俺が二葉や神凪さんと同棲していると学校側にバレたらどうなる?
クラスメイト達からは、どんな風に見られる?
いや、ダメだ。絶対にバレてはいけない。
「は、はははっ。 俺が神凪さんと同棲するわけないだろ? 神凪さんにだって家族が居るだろうし」
「分かってるって! さっきも言ったろ? お前を少しからかってみただけってな!」
烏丸は笑いながら俺の肩に腕を回した。こいつの冗談は冗談に聞こえない。烏丸とは去年から同じクラスだが、やっぱりこいつのテンションには、付いていけないようだ。
妹な後輩が俺の妹(家族)になろうとしています。 天馬るき @tenma_ruki
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