第28話

 ピザを食べ終えると、宣言通り綾は帰っていった。


 そうなると、二人残されるわけで。水城さんの話相手は俺だけになるわけで。


「二人になったな……」


「そうだね……」


 気の利いたことが言えなくなり、無言になってしまう。


 しばらく、数分、数十分と、そんな時間が続き、焦りを覚えた。


 どうしよう、何か話さないと。


 そう思うけれど、関係を築こうかどうか答えが出ていない今、どう接すればいいのかわからない。


 沈黙が続く。気まずい。


 というか、いっぱいいっぱいになっていたけど、俺はともかく水城さんが口を開かないのはどうしてだろう?


 見ると、目があった。そしてすぐ逸らされてしまう。心なしか、水城さんの顔が赤い。


 何を考えているのかわからないけれど、そんな態度を取られると顔が熱くなる。


「……な、なぁ? あつくないか?」


「うん、あつい。窓でも開ける?」


「ああ……い、いやいい! 開けなくて良い!」


「そっか、もう帰るからか。綾も帰っちゃたし」


「そうじゃなくて、その……とにかく、ちげえ、ちがうっていうか」


 もじもじ、とする水城さんに、何となく、勘付いてしまう。というより、甘い雰囲気ができている。


 全身に血が巡って更に熱くなり、心臓はバクバクと鳴り出す。


 この前はこんなことなかった。でも、今そうなっているのは、間違いなく意識してるからだ。


 ああもう。綾を恨みたくなる。


「な、なぁさ。隣行っても良い?」


 それはどうなんだろう、と答える前に、隣にきて、ぴとっと肩を寄せられた。華奢な女の子の体に触れて、心臓が跳ねる。もっと触れたい、という強い欲求にかられ、胸から喉にかけてのそわつきが止まらない。


 でも、ダメだ。前とは違って、写真で脅されてるわけでも、強いられているわけでもない。前と同じ、何かしらで償うつもりであったとしても、その前には自分の意思が介在する余地がある。


 いや、俺は、ここで今更カマトトぶるような人間じゃない。


 ここで雰囲気に流されることに決めるというのは、水城さんとの関係を築くことに決めるような、そんな気がする。してならない。


 だから、怯えて、二の足を踏んでいるだけなのだろう。


「あの、さ」


「な、なに?」


「別にその、来るときは、そんなつもりじゃなかったし、まだ私、ちゃんとお前のこと好きじゃない」


「うん」


「でも、多分好きになる気がする」


 水城さんは、だから、さ、と続ける。


「さ、させてあげても、いい、よ?」


 熱のこもった潤んだ瞳に釘付けにされる。


 こっくりさんみたいな、正体不明の吸引力を感じて、自然に唇と唇の距離が縮まっていく。


 が、ギリギリで俺は止めた。


 流されて、関係を築くことに決めるのは違う。


 そんなに俺の失敗は小さくない。


 俺は立ち上がった。


「ああ、うん。もう夜遅いから送ってくよ」


「へ?」


 ぽかん、とする水城さん、だけど少しして言葉の意味を飲み込んだようで、怒鳴った。


「何でだよ!」


「ごめん」


 水城さんは、恥ずかしそうに、うう、としばらく唸ったのち、立ち上がった。


「もういい! 一生させてやんねえから! 帰る!」


「送っていくよ」


「いい!!」


 どかどか、と歩いて、水城さんは部屋から出て行った。


 バタン、と閉じられたドアをぼーっと眺める。


 まあまあ最低なことをしたけど、これでいい。多分好きになる、そう言われて、気持ちをハッキリさせないまま流される方が最低だ。それに、自分にとっても、流されて、なあなあで関係を築くことに決めるのは避けるべきだった。


 まあそれでも、それなりにクるよなぁ。


 なんて、数分、打ちひしがれていると、不意にドアが開いた。


 靴を脱いで入ってきたのは水城さん。斜め下を向いて、何かを言いにくそうに、立ちすくんでいる。


「えっと、忘れ物でもした?」


「……ゃっぱ、て、よ」


 か細い声で聞こえなかったので、立ち上がって聞き返す。すると、水城さんは、たた、と駆け寄ってきた。


「やっぱ、してよ!」


 襟元を、グイ、と引っ張られて、唇と唇が触れた。


 突然の甘い感覚にぽかんとする俺に、水城さんは潤んだ目を向けてくる。


「ずっと、この前のことが頭によぎってた。湊とまたしたいよ」


 今まで悩んでいたのが嘘みたいに、頭の中が晴れる。


 今度は俺から唇を合わせた。



————————————————————————————————————


次回、ようやくエロ;;





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