第27話
「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ!」
「これは?」
「ピザ!」
水城さんの言った通り、テーブルの上にはピザが並んでいる。熱して甘くなった口の中でほどけるトマトと、とろっと伸びるモッツァレラのマルゲリータ。甘旨い照り焼きチキンとマヨコーンのピザ、そしてサラミがいっぱい乗ったピザが、ほかほかと湯気を立てていた。
「私、これ1ピース頂きます!」
「じゃあ私はこれ! お前は何にすんだ……おーい、おーい?」
「え、あ、なんだっけ?」
「何いくか聞いたんだけど……お前、ゲーセンからずっと変だな」
「あはは……」
苦笑する。
ゲームセンターから部屋に帰ってきて、夕食を取っているわけだけど、今に至るまで綾の言葉が気になってやまなかった。
『100点をまだ取りたいなら、京香さんほどうってつけの人はいない』
100点か。
ずっと幸せで、ずっと楽しくて、親しい仲が続くことが100点。綾はそういった意味でのかもしれない。
関係が続いていくことが100点だった俺にとって、それは何点になるだろうか。
ふと、水城さんを見る。
濡れているかのように艶やかで、指を入れれば抜けていく、柔らかでさらりとした黒髪。
気の強そうなはっきりした瞳、時に蕩け、熱くなってこぼれ落ちそうになる瞳。
澄ました桜色の唇、時に、熱く甘い吐息とせがむ濡れた声で湿り、色っぽくなる唇。
どうしようもないほどの美少女と、今日みたいに楽しい時間が、時に甘い関係が続く。
「ん? どした?」
「ご、ごめん、なんでもない」
俺は見ていたことを恥じ、誤魔化すように慌ててピザを口に突っ込みながら、視線を下げた。
だけど、吸い込まれるほど柔らかい、形の良い胸が、細くて長い滑らかな生足が、透明感ある白い肌が目に入ってくる。
「むぐ」
ピザを喉に詰まらせて、慌ててお茶を飲む。そのおかげで冷静さを取り戻した。
いやいや。悩む以前に、そもそもの話じゃないか。
水城さんは、小野さんへの復讐で、俺を彼氏にしたいだけ。役目が終わればそこで関係が切れる。だから、続けようとするしないを悩まずとも、続けられないのだから悩む必要はない。
でも、本当に続けられない、と心の底から思えない。
続けようとすれば、上手くいくような、関係が変わらないような気がする。それは、お昼に、居心地がいい、と 言ってもらったからではなく、なんとはなしの感覚で、鷲見ちゃんが言う、根拠の弱い自信ってやつ。
恋人までの深い関係は無理でも、友達くらいなら続けられるんじゃないか。そのための努力をしても無駄にならないんじゃないか。そう思えて仕方ない。
だけど、やはり、二の足を踏む。
関係を続けようとして俺は大きく失敗したんだ。そこから学んで、もう二度と同じ轍は踏まないと決めたんだ。それを変えるということは、それは……。
「あーきもちいっすわー! すかした、いけすかねえ野郎が、一丁前に思い悩んでる姿を見るのは、スカッとしますわー!」
綾は、ピザがうめえ、とニヤニヤする。そして首を傾げる水城さんを無視して綾は続ける。
「今日中には答えでなそっすね。私、ピザ食ったら帰るんで、答えが出たらまた教えてください」
「答え?」
水城さんが尋ねると、綾は答えた。
「作戦を受ける条件で、みなちょむの気持ちが変わらなかったら、京香さんを諦めさせる側に私が回るってやつです」
水城さんは今思い出したかのように、あ、と声を出した。
「ちょ、ちょい、てめえ。い、いまからメロメロにしてやんから待っとけ」
「忘れてたの?」
「うっせえ! 楽しかったから忘れてたんだよ! 文句あっか!?」
ない。だけど、そんなこと言われると、余計心が揺れ動く。そのことには文句を言いたい。
「京香さん、安心してください。みなちょむはもうメロメロなんで、下手になんかしようとしない方がいいです」
頭の上に?マークを浮かべる水城さん。
俺も?マークを浮かべたい。だけれど、メロメロというわけではないが、今まで頑なだった心が揺れていることは事実で、俺は苦い顔をするしかなかった。
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