第17話

「湊ちゃん、私見ちゃったんだ。ゴミ箱の中」


 明言はしなかったが、鷲見ちゃんが何を見つけたかわかった。


 肝が冷える。


 押し倒された状況の中、俺は何とか声を出す。


「それは、その……一人でするのに、汚れるのが嫌だから使っただけで」


「嘘♡ 何にも言ってないのに、弁明する時点でおかしいよ?」


「じ、じつは、そういうお店を」


 鷲見ちゃんは洗面所を指さした。


「使える年齢でもないしダメだよね。まあ、仮にだとしても、歯ブラシ二本、今あるのはおかしいよね」


「普段から二本使いで……」


「ゴミ箱の一番上に歯ブラシの袋があったんだけどな〜」


 言葉に詰まり、何も言えなくなると、鷲見ちゃんは満足げに笑った。そして黒い笑顔を浮かべた。


「水城京香と昨日したんだね?」


「いや水城さんと決まったわけじゃ」


「水城京香だよね?」


 どうやって誤魔化そう、と思ったけれど、全てがバレてそう。これ以上嘘をつらねても状況を悪くするだけ。そんな気がして、渋々頷いた。


「なるほどね。私が胃袋を掴む前に、あの女は〇〇袋を掴んでいたというわけか」


「鷲見ちゃんがそんなこと言わないで」


「大丈夫、湊ちゃん。上書きしてあげるから」


 そう言った鷲見ちゃんに、胸を指で撫でられる。砂浜に円を描くような指が胸を這い、ぞくぞくと背筋が震えた。こそばゆい快感から漏れ出た息は、いつもより熱く感じる。


「どう、湊ちゃん。経験はないけど、練習はしてるんだよ」


「ちょ、やめて」


「何で?」


「こんなことされても、鷲見ちゃんの男にはならないから」


 鷲見ちゃんは、子供みたいな容姿には似つかわぬ妖艶な笑みを浮かべた。


「ふ〜ん。最後まで、その口が続くかなぁ?」


 指の動きが、ねっとりと、それでいて激しくなる。敏感な部分に触れてはじらしを繰り返される。


「ま、まじでやめて。意味ないから」


「どうして?」


「鷲見ちゃん相手じゃその気にならないから」


 苦し紛れに言った言葉だけど、嘘ではない。馬乗りされているのに何の負担もないほど軽い体重。抱けば折れてしまいそうなほど華奢な体。妖精みたいな容姿。ミニスカサンタという艶やかな服装でいても、こんな状況でも、その気になれないほどの背徳感がある。


「湊ちゃん」


 鷲見ちゃんが手を止めたので、安堵の息をつく。だけど、鷲見ちゃんの顔を見て、体が強張る。頬が紅潮していて、目がとろんと溶けていた。


「そんなそそること言うなんて、誘ってるの?」


「誘ってないって!」


「生意気だなぁ、湊ちゃんは。覇者として堕としたくて仕方ない」


 そう言った鷲見ちゃんは、ぺろん、と俺の服をまくった。急に腹部から胸にかけて外気があたり、身が強張る。そして何より、異様な羞恥心が湧き上がってきて、目が白黒しそうになった。


「可愛い、湊ちゃん」


 鷲見ちゃんは、嬉しそうに掌で腹筋を撫でた。柔らかく、小さな手から体温が伝わってきて、胸の鼓動が早くなる。


 これ以上はまずい。


 鷲見ちゃんみたいな小さな子に支配されていく感覚。羞恥心、背徳感で何も考えられなくなり、ただ息と心臓だけが荒いでいってしまう。


 何とか振り払おうと体を起こそうとするが、額を指で抑えられたり、上手く体重をかけられたりして、動くことすらできない。


「無駄だよ、湊ちゃん。覇者として武芸百般を修めてるの。マウントポジションを取らせた時点で、素人相手にはまず負けない」


 逆らうことはできない、と魂に染み込ませるような、そんな声を耳元で囁かれる。抗おうにも何もできなくて、無力感だけが湧き出し、気力が失せていく。


 そんな中で、ぴちょりと柔らかく湿った感触が腹の上を滑った。見れば、小さな赤い舌が伸ばされていて、息を呑んだ。


「あは。舐めただけなのに、もう喋れないんだぁ、湊ちゃん」


 また舐められて、変な声が出そうになる。今度は啄むようなキスの雨を体の上に降らされる。唇が体に当たるたびに、声が漏れそうなほどの快感が走った。が、そのあとはしばらく見下ろされるだけ。焦らされている、だが悔しさより、快感を求める気持ちが強いことに気づいて、唇を噛む。


「湊ちゃん、可愛いすぎ」


 また舌を伸ばされる。鎖骨を撫でる、ざらついた舌の感触がありありとわかる。目を開けているのに閉じて感覚に身を澄ましているかのよう。焦らされたりしたせいか、全身が敏感になったのがわかる。


 そんな俺の状態に気付いたのか、弱い刺激を繰り返す、わけではなく、元より敏感な部分に強い刺激を与えてきた。濁流のような快感に襲われ、頭の中が白くなっていく。そして気づけば、唇を舐められ、口内を舐めまわされ、くたりと力が抜けていた。だけど、一部は強張っているようで。


「湊ちゃん。私相手じゃ、その気にならないんじゃなかったの?」


 鷲見ちゃんは笑ったあと、いただきます、と妖艶に言った。







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 次回か、次次回から、お話動くと思います。

 ストーリー優先ですが、エロももうちょっと高頻度に入れられたらなぁ、と思います。

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