第15話


 紺に染められた時間。街頭の落とすスポットライトを、出ては入ってはを繰り返し、帰路を辿る。


 あー、疲れたぁ〜。


 朝からは水城さんとわちゃわちゃ、昼は鷲見ちゃんとごたごた、その後は教室で誤解を解くのにくたくた。最後に、遊園地で、もぎりのバイトをして、へとへと。


 怠さというより、体が重いという感覚。このまま、ベッドに入れば、一瞬で寝落ちしてしまいそうだ。


 6月に入ったばかりの夏春が混じる夜風が肌を撫でる。冷たいとも暑いとも違って、生温い。だけど、不快感はなくて、さらっとした爽快感すらある。


 いい夜だ。帰って風呂浴びたら、窓を開けて寝よう。


 少し足取りが軽くなる。


 一歩、一歩、また一歩。歩きの速さは増していき、いつしか跳ねるようになって、アパートからあと少しの所で止まる。


 だれかが俺の部屋の前でしゃがんでいるのが見えた。


 酔っ払い、過労のサラリーマン。おおよそ想像されるものとはかけ離れた、小さな女の子。しかも格好は、白ひげが似合いそうな赤と白。


 一気に体が重くなる。


 どう見ても、鷲見ちゃんだよなあ。


 踵を返すか、なんて考えが浮かんだ瞬間、鷲見ちゃんが立ち上がって手を振ってきた。さすがに、無視するわけにはいかず、重い足取りで部屋へと向かう。


「こんばんは!」


 部屋の前まできた俺に挨拶をする鷲見ちゃんに対して、何よりまず服装のことを尋ねずにはいられなかった。


「その格好どうしたの?」


 鷲見ちゃんがしているのはミニスカサンタのコス。ふわふわとした毛ざわりの赤と白を基調としたベアトップ。細いウエストを絞る太めの黒のベルト。ふわっと広がったスカート丈は短く、細くも女の子らしい肉付きの瑞々しい生足が伸びている。露出した肩も、谷間が見える胸元も綺麗でエッチな筈なんだけれど、可愛いという印象しかない。


「似合ってない?」


「いや、めちゃくちゃ似合ってるけど」


 ミニスカサンタのコスは、鷲見ちゃんの銀髪碧眼に合いすぎている。だけど、そういうことではない。


「どうして半年も流行を先取りしてるの?」


「温度的には、冬にする服装じゃないと思うの」


「そりゃまあそうだけど」


「まぁま、お部屋に入れてくだされ、お殿様」


 鷲見ちゃんは白のずた袋を担ぎ上げてそう言った。

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