第12話


 昼休み。俺はうんうん唸りながら頭を悩ませていた。


 水城さんのことどうしよう。


 彼女を作らない理由を尋ねてきた。つまり水城さんは、俺と小野さんが彼氏彼女の仲ではない、と理解した。そして俺を彼氏にする必要がなくなり諦めた。


 っていうのは、ありえないお話。


 理由、話したくなったら、ちゃんと話しにこい。俺に興味を失ったのなら、そんなことは言わないわけで。小野さんの男としてしか興味のない俺に対して、まだ興味を持っているというわけで。ならば、まだ彼氏にする気でいるわけで。


 恋人ではないと知ったのに、どうしてまだ彼氏にしようとするのか。それは不思議ではない。


 水城さんは小野さんと俺がヤったことを理解したのだ。彼氏彼女ではないとしても男女の関係ではあるので、小野さんから俺を奪おうとするのも当然だろう。どころか、恋人を奪うという道徳に欠けた行為でなくなる分、むしろ積極性が増すかもしれない。


 うーん、どうすればいいんだろう。小野さんと俺は恋人でない、と言っても無駄だし、恋人を作るつもりもない。


 短期間だけ、水城さんと付き合うか?


 いや、水城さんのことを好きな人は山ほどいる。その人たちの一部は、俺と水城さんが付き合えば失恋するだろう。偽物の恋人関係でそんな事態を招くのは善くない。


 それに……楽しくない。


「どうした、湊。難しい顔して」


 パンを食べながら青山はそう言ってきた。


「ちょっと悩み事」


「そうか、ならこの動画を見ろ、悩みなんて吹き飛ぶぞ。ああ、モグモグ、可愛い」


 青山が机に置いたスマホには、見覚えのある銀髪碧眼の美少女が山盛りの白米を食べている動画が映っていた。


「いや、鷲見ちゃんじゃん」


「お前、帝様を見て、よくそんな冷めた反応ができるな!? 可愛いと思っていないのか!?」


「可愛いとは思ってるけど」


 水銀のように艶やかで美しい銀髪、サファイヤブルーの大きな瞳。それはカラーリングとカラーコンタクトだけれど、人工なのが嘘にしか思えないほど、彼女に似合っている。さらに、小さな顔に真っ白な肌、可愛らしくも小悪魔的な桜色の唇、と、二次元の美少女が画面から出てきたような容姿をしている。


 体型は非常に華奢で小柄。身長も多分140cm台くらいで小さい。女性の部分は、体格からすると、育っている方だと思うけど、女子というよりは女の子って感じ。つまり、ロリコンの青山が好むくらい。


 性とはかけ離れた、妖精とかそういったものの類に近い美少女。それが鷲見帝だ。


 実際に可愛いとは思っている、けど。


「バイト先の社長の娘さんなんだよ。だから何となく、興味持てないっていうか」


「何!? 今すぐ教えろ! 何のバイトだ!?」


「派遣だよ。一緒のバイトに入ったことあるけど、数回だから、接点持とうと入るのはやめた方がいいよ」


 そう言うと、青山は、ぐぬぬ、と唸った。


「くっ、それなら一生会えない可能性もあるのか」


「そんなことないよ、大人数が必要なところなら、私も結構入ってるから」


「な、なら、可能性あるか。い、いやでも不純な動機でバイトなんか。それに派遣って、仕事教えてくれないって聞くし」


「バイトなんてお金が欲しい、って不純な動機でするもの。それに、うちの紹介する職場なら大丈夫だよ。地元企業と繋がりが深いから、うちと揉めたくないと思って、ぞんざいには扱われないから」


「そ、そう? なら安心だけど、でも今一歩踏み出せないな」


「そんなあなたに今だけのキャンペーン! 紹介者と登録した人は、なんと5000円が貰えちゃいます!」


「やります! ……って帝様!?」


 青山は、海外の通販番組みたいなやりとりを終えて、鷲見ちゃんがいることにようやく気づいた。

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