第9話


「私に、小野より、凄いことをしろ」


「え、本気で言ってる?」


「当たりめえだろうが。今日はそれで、優越感を覚えるだけで、満足してやる」


「そういうことじゃなくて……」


 俺は、こほん、と咳をして続ける。


「俺と小野さんはホテルにいたわけだよ?」


「バカにしてんの? そこにいた写真を撮ってるんだぞ、こっちは」


「うん。わかってるなら、いいんだけど……でも本当にわかってる? 何したかわかってる?」


 水城さんは、当然、と胸を叩いた。


「ホテルに入った男女がすることなんて、抱き合う、以外あるか?」


「いやまあ、ないんだけど」


 ないんだけど、本当にいいのだろうか。貞操観念どうなっているのだろうか。


「ったく、しゃらくせえなあ。男だろ? 早くやれよ」


 そう言って、水城さんは抱っこをねだる子供のように両腕を開いた。


「何してるの?」


「はあ? お前が抱きやすいようにしてんだろうが」


「……抱くの意味、わかってる?」


「わかんねえやつなんて、いんのかよ。ハグだろ、ハグ」


 水城さんが、俺がホテル前の写真に困ることについて、疑問を抱いていたことを思い出す。


 なるほど、水城さんは抱くの意味がわかっていない。


「んだよ、黙っちまって。照れてんじゃねえよ」


 水城さんを見る。強気、ヤンキー、生意気。


「水城さん、俺はSじゃない。ノーマルなんだよ」


「はあ? てめえの性癖なんて聞いてねえし」


「そんな俺がS心を抱いてしまって、楽しそう、と思ってしまってる」


「何言って?」


「騙すような真似したくないから言うけど、水城さんの思ってるようなことと、俺と小野さんがしたことは違う。んで、それより凄いことをすれば、写真を消してもらえるのなら、喜んでするし、消さなくてもしたい」


 そして俺は最終勧告を行う。


「水城さん、今なら辞められるけど、本当にする?」


「たりめえだろ。違ったとしても、小野に対して優越感を得られんなら、やるに決まってる。むしろ、やるまで、帰ってやんねえからな」


「そっか、わかった」


 俺は水城さんを立たせ、背中と腰に手を回した。ゆっくりと引き寄せ、距離が近づいていき、柔らかいものが胸の間でつぶれる。桃のような優しくて甘い香りに包まれながら、華奢な骨格を確かめるように手を動かした。


「んっ」


 艶やかな声が聞こえて見ると、そっぽを向かれた。頬は紅潮していて、恥ずかしさに耐えている姿が愛しい。


 しばらく軽く抱き合ったのち、顎を肩に預け強めに抱く。すると、俺の背中に回された手に力が篭った。


 顎を上げ、綺麗な耳に息を吹きかけてみる。


「ひゃっ」


 高い声を上げ、びくん、と跳ねた水城さんは、目を丸くして俺を見た。


「な、なにして?」


 撫でるようにまた息を吹きかける。


「ふわっ、ちょ、な、なに!?」


 逃げようとする水城さんを逃さないように、腰に回した手でがしりと固定する。そして耳を甘く噛む。


「ひゃあ」


「嫌だった?」


「……い、嫌に決まってるだろ! 何して!?」


 返答に詰まった時点で、続きをすることに決めた。


 反応を確かめながら、耳たぶを吸い、耳の外側を舐める。耳を可愛がるたび、水城さんは、止めた息が短く漏れるような熱い吐息を吐き、逃げる力が弱くなっていく。


 耳の中に舌を伸ばし蹂躙すると、水城さんは、みるみる力を失っていき、くたくたになった。重みに耐えきれず、入れ替わり、ベッドに座る。そして膝に手をやって折り曲げ、俺の腿の上に座らせた。


 見つめ合う。だけど、もはや、水城さんの目の焦点があっていない。赤い顔で、ぽーっと蕩けてしまっている。


 はぁはぁ、と荒い呼吸をする口に、唇をあてる。


「き、きしゅ?」


 弱々しい声を止めるように長めにキスをする。


「ゃあ」


 唇を離すと、可愛いことを言うので、また唇を重ねる。そんなことを繰り返していると、あっちから重ねてくるようになった。


 啄むようなキスをやめ、舌をねじこんで絡めあわせる。頭の中が白くなっていく快感を得ようと、息の続く限りキスをして、すぐにまたキスをする。そうするとまた、向こうから舌を伸ばしてくるようになって、口内を舐め回される。


 唾液をかき集めるように舌が口の中を動き回り、引き抜かれる。水城さんの喉がこくり、と鳴ると、心臓が痛いくらいにはねた。


 メロンみたいに瑞々しくて甘くて粘っこい、そんな空気の中、口を開く。


「続きする?」


 こくこく、と頷く水城さんを押し倒し、体に手を伸ばした。


 ***


「喉痛い、腰いたい」


 涙目でそう言う水城さんに、冷えたスポドリを手渡す。礼も言わずゴクゴクと飲む彼女に問いかける。


「もういい時間だけど、大丈夫? 親御さん、心配してない」


「してない。私、一人暮らしだし。県外から来たって言ったじゃん」


「そう、じゃあ落ち着いたら送ってくよ」


「はあ!? 泊めろよ! 腰痛えっつってんだろ!」


「……」


「おい、何その無言……って、あ♡」


 夜は更けていった。





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お読みくださりありがとうございます。

続きを書くモチベーションになりますので、一言でも何でもいいのでコメントや、☆レビューしてくださると嬉しいです。

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