第8話


「何でだ!?」


 と問われても、復讐の道具にされるのは面倒くさいから、としか答えようがない。それに……。


「そもそも、その話のどこを信じればいいの?」


「全部真実だよ、なんで信じねえ?」


「百戦無敗のヤンキーとか、初手から疑わしいんだけど。そんくらい有名なら流石に知ってると思うし」


 あとめちゃくちゃ弱いし。


「なるほど。まあ、私と小野は他県出身だから知らないのも無理はねえか。でも、真実だ」


 水城さんはそう言って、スマホを取り出し、耳に当てた。


「あぁ、私だ。今から、例の男に変わるから、質問に答えてやってくれ」


 スマホを差し出されたので、受け取って耳に当てる。


「代わりました、橘です」


「うぃっす〜、綾で〜す。京香さんの彼氏さんすか?」


 軽い調子の女の子の声が電話越しに聞こえた。


「彼氏じゃないけど」


「うぇ!? まじっすか!? デートの最後に『付き合って、これからも遊んでくれない?』って京香さんに言われて落ちてないんすか!?」


「スロット終わった直後に言われても落ちないよ」


「うぅわぁ〜、スロット連れてっちゃったんすか。流石、京香さん。ぽんこつすぎて可愛い」


 話の流れからすると、水城さんが遊びに誘ってきたのは、デートの後のセリフで落とそうとしていたかららしい。そう考えると、ハイタッチやら肩を寄せてきたりやらも、落とそうとするための行動だろう。でもまあ、そんなことはどうでもいい。


「で、質問に答えて欲しいんだけど」


「あぁ、そんな話でしたね。なんっすか? なんでも答えますよ」


「水城さんが百戦無敗のヤンキーだったってマジ?」


「マジっすよ。あんな可愛い人殴れる人なんていませんし」


「道を歩けば皆通り過ぎるまで黙る、っていうのは?」


「そりゃ見惚れて口をつぐみますよ」


「ヤンキーやめて、優等生気取ってるのは?」


「ヤンキーする年でもないって言ってましたね。まあそれで優等生になるって、極端で、不器用で、痛くて可愛いっすよね〜」


 俺は、ありがとう、と言って、通話を切った。そしてスマホを水城さんに返す。


「綾がどう答えたかは聞こえなかったが、どうだ? 信用したか?」


「まあ信用はできたよ」


 現実はどうあれ、水城さんの認識はどうあれ、言っていることが真実なのは間違いないだろう。となれば、小野さんに恨みがあることは事実で、雪辱を晴らしたいことも事実。


 はあ、めんどくさい。


「オセロのルールとか教えるんで、それで写真消してもらえませんか?」


「バカ! オセロのルールわからないアホがどこにいるんだ!? それにオセロで勝ったとしても屈辱を与えられないだろ! わざわざ小野に復讐するために、同じ学校を選んだのに、オセロに勝って、やったあ、って虚し過ぎるだろ!」


「ええ。わざわざ、そのために学校まで。本物のストー……」


 途中まで言いかけたところで、ちっちゃな、おててに口を塞がれる。


「それ以上は言うな。政治、宗教、その単語と五と嫁の推しを口にすれば血が流れる」


「一……」


「二だろ、バカ! 殺すぞ!」


 ぽかり、と叩かれる。まったく痛くない。


 仕方ないので、黙っていると、水城さんは離れてベッドに座り直した。


「とにかくだ。そういうわけだから、私の男になれ」


「いや無理ですって」


「うぅ〜、強情な。逆に何だったら、私の男になるんだ?」


 俺は息をついて、答える。


「俺は誰とも付き合う気がないんで、どうしようと無理です」


 ちょっとだけ本気のトーンになってしまった。そのせいかしばらく無言の時が流れた。


「ちっ」


 水城さんは舌打ちをして、まあいい、と言った。


「今日の所は諦めておいてやる」


「それはよかった。写真も消してください」


「ああ。その代わり、だ」


「その代わり?」


 水城さんはドヤ顔で言った。


「私に、小野より、凄いことをしろ」

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