第2話 クリスマスのリン②懐かしい絵本と怖い思い出

 この本を僕は決して完読する事はなかった。根気がなかったからじゃない。いや、確かに根気もなかったけど。図書館にもあったこの児童書には当時、怖い噂があったからだ。いや、怖いかどうかは人に依るのだろう。それは、タイトルにあるリンが、読み終えた人の所にその夜中、やって来るという噂だった。

 リンはちょうど真夜中に出発し、どんな場所でも一時間で着くと言われていた。そして、リンはこの本を読んだ人が失った物を探してくれるために訪れるのだと。

 本の内容はと言うと、クリスマスの裏話的な話。クリスマスに、サンタクロースのソリを引っ張るのは、エースのトナカイ達。一方、落ちこぼれトナカイのリンは、小さなみすぼらしい鈴を首にかけ、エースのトナカイ達みたいにカッコよくは走れない。そしてプレゼントを配るサンタとは違って、みんなの失った物を代わりに探すのが役目なのだ。

 何かこの本の、可愛いながらもちょっと暗めの絵が元々、苦手だった。絵というより、この話の世界観かな。

 それに増して、読んだ人の所に夜中に現れるという噂がダメだ。ホラー映画かよと思ってしまう。小学四年生の頃、リンの夢をみた。夢の中で、リンは我が家の玄関の硝子戸を外からガタガタ開けようとしていた。鍵をかけた上につっかえ棒をすると、裏口に回ってきた気配が……。微かに鈴の音が裏口の方で聞こえてきた。


そんな夢をみて以来、この本の表紙を見るのも嫌になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る