12時発、1時着。/3つの心の旅【第2話】クリスマスのリン

秋色

第2話 クリスマスのリン①古い家

 田舎の家を訪れるのは七年振りだった。父の遺した大きな家。実家ではあるものの、母が十年前に亡くなり、七年前に父が高齢者施設に入ると、帰省する理由も無くなっていた。何ヶ月かに一度、父に会いに行くのは施設だし、その間の家の最低限度の管理は、この家の近くに住む姉がしてくれていた。

 久しぶりに見る生まれ育った家は、生け垣に囲まれた荒れ放題の庭に、野草のヒメジョオンやタンポポが花ざかりだった。父母がいた頃、常に美しく手入れをしていた庭の名残りはなかった。とは言ってもここに住んでいた頃は、風流に庭を眺めてた事なんてない。また、大学進学を機に東京へ出るとすぐに都会の生活に慣れた僕は、故郷の家も庭も、その情景を思い出す事はほとんどなかった。

 昨日、三ヶ月前に亡くなった父の、そして自分の物の整理に僕と妻は、何時間もかけて、この田舎町を訪れていた。


「来る度に思ってたけど、堂々とした立派な家ね。柱も大きくてどっしりしている。それに広いよね」と妻。


「広いけど、若い頃はなぜか窮屈に感じられてたな」


 二階の本棚に、子ども時代の本がまだある。そしてそこに懐かしい本を見つけた。絵本と普通の児童書の半々みたいな本。つまり、絵本のように全ページに凝った絵はあるものの、小さな字もぎっしり書かれてある本だ。タイトルは「クリスマスのリン」。

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