翌朝。鳥の囀りが一段落したのを見計らったように、また網籠を持ってメラスが森の中から現れる。彼は手にした網籠と、昨日自分の置いていった網籠を交換した。そして、昨日置いていった籠の中を見て、苦笑いを浮かべる。

「何だい? ちゃんと食べていないじゃないか? 薬も使っていないみたいだし、それでは治るものも治りが遅くなるぞ」

 そう言うとメラスは自分の善意を証明するように、全ての麺麭を一つずつ千切っては食べ、千切っては食べていく。毒など何も入っていないと、自らの口で証明しているようだ。

「それから、これももう捨てておこう。森を汚されるのは、ここに住む私として見過ごせないからね」

 そう言って、彼は昨日俺が巻いていた血の付いた包帯も回収する。そしてこんな捨て台詞を残して、またメラスは森の中へと帰っていった。

「それじゃあ、また明日、同じ時間に来るよ」

 クゥニが新たに置かれた網籠を、俺の方に持ってくる。一緒に中を見ると、今度は鍋に、包帯、薬、そして、男女の着替えが一式入っていた。鍋の中は、野菜と鹿の肉を煮込んだ汁物が入っている。香ばしさの中に甘みを感じる不思議な匂いに、俺の胃袋が鳴った。無表情のクゥニが、俺の顔を一瞥する。

「……毒味、しましょうか?」

「いや、その必要はないから! 食べれないだろ、吸血鬼が作ったものなんて……」

「……薬、今回は、どうしましょう?」

「それこそ、食べ物と違って何が入ってるのか、調べようがないだろ。使えないよ」

「……服は、どうします?」

「それは、包帯と同じように、調べるか……」

 そう言いながらも、俺は、いや、きっとクゥニも、ある予感がしていたに違いない。そう遠くない未来に、俺たちはメラスの好意を、感受する日が来ることを。

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