第3話
シャワーを浴び終えて保湿等も終え、部屋着でベッドへと向かう。
シャワー前にスマホをベッドに置いたままにしていたので確認すると奏汰から『分かった、もう会わない』と素っ気ない返事が来ているだけだった。
淋しい気分になりながらも仕方無いと思いモソモソとベッドに入り身体を横に向けスマホ画面を見つめる。
カチコチカチコチと壁掛けの丸時計の音が響くこの部屋はテレビが無い。
そのため動画を観ていないと本当に静かで嫌な事を考えてしまう。
また、私は誰かの1番になれなかった。
そう考えてスマホを見つめるのを止め一度ギュッと握りしめてから顔の横にそっと置いた。
初めて恋した時からそうだった。
二股相手にされていたり、浮気相手にされていたり……この数年間で両手の数くらいは有るだろうか……。
はぁ…と溜め息を吐き、ベッドから起き上がりそのままベランダの方へと歩く。
カーテンの隙間から空を見上げビルやマンションの間から見えるどんよりとした厚い雲にもう一度溜め息を吐く。
もう一度ベッドへと戻り、ベッドサイドに置いてあるタブレット端末を起動してアプリでドラマを流し始めてから1度立ち上がり冷蔵庫へと行き中からペットボトルのお茶を取り出してベッドに戻ると布団をかぶりドラマを観始めた。
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気付いたら朝だった。
といっても6時を過ぎた頃でまだ辺りは薄っすらと暗く街灯が光っている様な時間帯だ。
どうやら昨日ドラマを観ながら寝落ちしてしまったようで、タブレット端末は電源が切れているのか画面が真っ黒になっているし、スマホは充電していないのでバッテリーが20%まで減っていた。
スマホとタブレット端末を充電器に挿してベッドから上半身を起こし、うぅ〜ん…と1つ伸びをした。
ベッド脇のバックから手帳を取り出し今日の講義の確認をする。
どうやら1限からあるらしく起きたついでにのんびりと準備を始めることにする。
顔を洗って歯磨きをして買っておいたパンを1枚トースターで焼く準備だけしておく。
ガスコンロにフライパンを置いて油を引いて火にかけ冷蔵庫から卵と牛乳を取り出しボウルに割り入れ簡単に混ぜて温まったフライパンに流し入れてスクランブルエッグを作る。
お皿を取るついでにトースターのパンを焼き始め、冷蔵庫からソーセージを二本出して皿に乗せた。
スクランブルエッグを皿に乗せて今度はフライパンにソーセージを入れて焼いていく。
軽く焦げ目が付いた所で皿に乗せたところで丁度パンが焼けた。
新しい皿にパンを乗せてササッとテーブルに持っていき箸とケチャップと粒マスタードをテーブルに置いて椅子に座り食べ始めた。
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準備万端で講義用のバックを肩にかけて玄関で靴を履き家を出る。
小さな声で、行ってきます。と呟いた。
ドアを閉めて鍵を掛けて階段へと歩こうとしたら2軒隣の階段脇の部屋の扉が開き中から人が出てきた。
……あれ?なんか、見覚えがあるような……
見つめるような視線を送っていたのだが鍵を掛け終えた2軒隣の人がこちらを見て驚いて「あれ?昨日の……」と呟いた声が聞こえてきたので見覚えが有ったのは間違いではなかったようで安堵した。
私は軽く笑って「おはようございます、同じアパートだったんですね」と声をかけた。
偶然ってすごいなぁ。
「おはようございます、そうみたいですね、びっくりしました。」
昨日のサラリーマンさんと偶然の再会にちょっと運命感じちゃったかもしれない。
……ちょっとだけだよ?
挨拶をしながら近付いていき、アパートの階段を並んで降りて行く。
「大学生かな?朝から講義ですか?」
「はい、大学二年です。あ、名前……私、
バックをゴソゴソとして昨日のように単語帳を取り出す。
そして名前の漢字を書いて渡した。
少し驚いた顔をして受け取ってくれて今度は彼がポケットから名刺入れを取り出し名刺を渡して自己紹介してくれる。
「
年下の私にも丁寧な口調で話してくれるなんて優しい人だなぁ。
(昨日は忘れそうになったスマホを届けてくれたし親切で優しい人なんだなぁ)
考えながら階段を降りていたら階段を踏み外してバランスを崩してしまった。
「きゃっ…」
「おっと…!大丈夫?足ひねってない?」
ラスト2段程度だったのだが、ズルっと落ちかけた所を柚原さんが腕を掴んで落ちるのを防いでくれた。
胸がドキドキとうるさい位鳴っている。
(こんなのヤバいよ…)
親切で優しくて力もあって……魅力的な部分が多くて……胸が高鳴るのを止められないかもしれない。
先に階段を降りきった柚原さんが私の前に立ちながらもう一度問いかけてくる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です、ありがとうございます。」
心配そうに覗き込んでくる目と目があった瞬間、私は恥ずかしくなって思わず顔を反らしてしまった。
(どうしよう……好きかもしれない、今までこんな風にドキドキした事ないよっ)
怪我せずに済んだお礼を言い、平静を装いながらまた歩き出す。
どうやら柚原さんは近くのバス停を目指しているらしい。
私はその先の駅に向かうのでバス停まで一緒に歩く。
「やっぱりお礼がしたいです。今日の事もあるし…」
「そんなに気にしなくて良いよ。」
遠慮気味な柚原さんに私は首を振って自分の意見を言う。
「んー、でも今度ご飯奢ります。って言ってもファミレスですけど…」
「ありがとう、じゃぁ今度お願いするよ。」
柚原さんが折れるような形で約束を取り付けた所でバス停に着いたのでそこで別れて私は駅に向かった。
ドキドキした気分のまま駅へと向かう私には柚原さんが私に向ける視線になんて気付いてなかった。
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朝の講義を終えた所で大学のカフェテラスへと向かった私は席に座ってのんびりしている美雨を見つけ、声をかけて前の席に座った。
「おはよう、美雨!あのね、昨日の事でね、ビックリな話あるの!」
「おはよう、聖華。ちゃんと別れたの?」
少し勢いが付いて席に座った私に美雨は少しだけ眉をひそめたが咎めない為、私は話を進める。
「分かった、もう会わないって返事来た。それより、昨日のサラリーマンさんがね、何と同じアパートだったの!名前も聞いたし朝も転びそうになった所を助けてくれたんだぁ。」
ドキドキした気持ちまで戻ってくるようで私は思わず目を閉じて手を頬に当てた。
対照的に美雨は冷静に呆れられながらも話を聞いてくれる。
「つまり、『昨日のサラリーマンが偶然同じアパートだったので恋をしちゃいました』ってラノベかよ」
「だってホントの事だもん。ご飯行く約束もしたの、いつって決まってないけど。」
美雨は諦めたように一言だけ告げてきた。
「彼女の有無と遊ばれないようにだけ気を付けてね」
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