第15話 ジャンヌのピンチ!?

「で、なんで一人増えてんのよ!」


 みんなの元に戻り、ロキも一緒に夜の妖精王ティターニアに会いにいくことをクレアに伝えると、あからさまに嫌そうな顔をする。


「もうこんなに居るんだからさ、一人くらい増えたって別に問題ないだろ?」

「そういう問題じゃないのよ!」

「ほら、お前もちゃんと挨拶しろよ」

「よろチクビ〜〜」


 最低だ、このオカマ。


「………」


 ほら見ろ。

 クレアがよけいムッとしちまったじゃないか。


 じーっと半目でロキを見やるクレア。

 警戒心を解かせようと微笑んだロキの口元が、下手くそに引かれたルージュのせいで裂けたように吊り上がる。


「きぃっ!? ――キモすぎるわよ!」


 正論すぎて何も言えねぇ。


「ちょっとあんたっ! 人の顔見て失礼じゃないのよ! 謝んなさいよッ!」

「その顔鏡で見てからいいなさいよね! 化物じゃない!」

「ばけっ……てめぇなめてんのかこの糞アマがァッ!」

「くそ……なによこいつ!? それが年長者に対する口の利き方なわけっ!」

「はああああ? 何言っちゃってくれてんのよこの小娘がっ」

「こむっ!? 言っとくけどあたしこう見えても百歳超えてるんだから!」

「たかが百歳で何言ってくれちゃってんのよ。ケツの青い赤子じゃない」

「なっ!? じゃああんたは何歳なのよ! 言ってみなさいよ! どうせ二十そこそでしょ」

「ぶっぶー、あちしは永遠の16歳ですぅー!」

「ムカつく。何なのよこいつ!!」


 それに関しては全面的に同意。

 ちなみに実際は数百万歳の糞じじいだけどな。


 そして、言い争いをはじめること小一時間――


「もういい。好きにして………」


 結局オカマとの口喧嘩に疲れ果てたクレアが折れる形となった。


「うっしゃぁああああッ―――!」


 オカマの野太い歓喜の声が鉱山帯にこだまする。





 俺たちは岩壁に埋め込まれるように設置された巨大な石扉をくぐり、薄暗い通路を進んでいく。

 その先には幻想的な光景――青白い光石の輝きに包まれた街が延々と広がっていた。


「これは凄いな」


 息を飲み、思わず瞠目してしまう。


「まるで絵本の世界に迷い込んだみたいですね」

「相変わらずアーサーはロマンチックなのだな」


 瞳を輝かせるアーサーやジャンヌたちとは違い、ゴブリンたちはどこか浮かない表情。

 どうしたのだろうと怪訝な面持ちになってしまう俺に、いつになく真剣な顔のロキが口を開く。


「魔族ってのは弱者を下に扱う生きものなのよ。見なさい」


 ロキが顎でしゃくり示した方向に目をやると、そこには首輪や枷を付けた魔物たちの姿があった。

 皆一様にやせ細っており、身なりはボロボロ。


「――って、あれは人間じゃないのか!?」


 その中に人間の子供の姿を発見した。


「人間と魔族との友好関係の証、それがあの子たちってわけよ」

「あれのどこが友好関係なんだよ! あれではただの奴隷ではないかっ!」

「魔族街ワンダーランドでのルールは一つ、弱肉強食。強ければ人間も出世する。ただし、弱者に待っているものは虐げられる苦痛オンリー。彼らは人間たちによって売られた奴隷ってわけよ。ただ野垂れ死ぬしかなかった無価値な人間を、夜の妖精王ティターニアは労働力として購入して受け入れているってわけ」


 ワンダーランドでは一部の魔族や魔物に隷属魔法を施し、人間たちと売買を行っている。

 買われた者たちは奴隷兵として、あるいは性奴隷として一生を過ごすことになる。


 人間と魔族の国交――友情とはよく言ったものだ。


「やめるですッ―――!」


 このような非人道的な光景を目の当たりにして、黙って見過ごせるほどうちの代表者は利口ではない。

 そして、その従者も……。


「なんだ貴様らはッ!」


 転倒した少年に鞭打つ魔物。

 そんな少年の前に颯爽と飛び出すアーサー。その隣には騎士の姿もある。


「もう大丈夫、心配しなくてもいいですよ」

「このような子供になんということをするのだッ!」

「なんだ、人間か……。仕事の邪魔だ。あっち行ってろ」


 魔物は二人を相手にすることなく、積荷を運ぶ少年に声をかけた。


「休んでいる暇はないぞ。さっさと運べ」

「……はい」

「ちょっ――」


 少年は立ち上がりアーサーに一礼すると、満身創痍な体で荷物を運びはじめる。

 悲しげな顔のアーサーを見やり、ジャンヌは咄嗟に少年の腕を掴んだ。


「待つのだ。お前の名は何という?」

「……奴隷です」

「!? ……それがお前の名か?」


 小さくうなずく少年に、ジャンヌは嘆息する。


「人は自由であるべきなのだ。やりたくもないことをやる必要はない」

「………」


 それだけ伝えると、ジャンヌは腰の剣を抜いた。


「おいおいおい! 一体なにをする気だっ! ――よせっ!?」


 ジャンヌは少年に付けられた手枷足枷を斬り裂いた。

 その行為に眉を潜めたのはクレアとロキ、それにゴブリンたちだ。


「ウゥルカーヌス……あんた信者をもう少し教育した方がいいんじゃないの? めんどうなことになったわよ」

「?」


 耳元でロキが囁くと同時に、甲高い笛の音が街中に鳴り響く。

 あっという間に四方から現れた武装兵に取り囲まれてしまう。


「これは一体何の騒ぎだッ――!」


 兵を押しのける形で現れたのは、武装した憲兵。


 少年の主人である魔物が事情を説明すると――


「何をするッ!? 気安く触るなっ」

「貴様を拘束する」

「なんだとッ!?」

「連れて行け」


 拘束されたジャンヌが何処かに連れて行かれる。


「ジャンヌッ!」

「やめるべアーサー!」

「離してくださいっ! ジャンヌがッ、ジャンヌ――!」

「これ以上騒ぎを大きくしたらまずいじょ」

「ええがら一旦落ちつくだよアーサー。 ここは敵のド真ん中。ここでやり合ったって、さすがにわてらに勝ち目はねぇがぁ」

「でも、ジャンヌがッ!」


 遠ざかるジャンヌの背中を呆然と見つめるアーサー。


「心配するなアーサー、少し此奴らと話をしてくるだけだ」

「……ジャンヌ」

「ジャンヌの言う通りだ。何も心配することはない」

「神様……はい。僕、神様を信じます」


 それでいい。

 さて、それでは色々と話をつけに行くか。


「急用ができた。さっさと夜の妖精王ティターニアのところに案内してくれ」

「あたしが悪いわけじゃないんだから……睨まないでよね。ふんっ、だ」

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