第14話 天界の詐欺師ロキ登場!?

 関所でダークエルフに詰め寄っていたのはまさかの同業――天界の詐欺師トリックスターことロキだった。


 悪趣味なスーツに付け過ぎなくらいベトベトに付けられた整髪料。少し癖のある深碧色の髪を後ろに流したオールバック。

 どこからどう見ても天界の厄介者――疫病神のロキである。


「ひ、人違いじゃないか?」

「そんなわけないでしょ」


 5歳児が母親の化粧品を勝手に使った結果、不気味な面が完成しましたと言わんばかりの、ド迫力の顔面がグッと迫りくる。

 条件反射でのけ反ってしまう。


「あんたなんでこんな下界ところにいるのよ?」

「なんだウゥルカーヌスの知り合いか?」

「いや、その……ちょっ、ちょっとこっちに来い!」


 俺はロキの腕を引っ張り、アーサーたちから距離を取った。


「お前なんでこんなところにいるんだよ!」

「あんたこそなんで居るのよ? あんたに限ってまさかとは思うけど……領地を賭けた神々の戦いやってんの?


 さすがロキ、こういうことに関してだけは妙に勘がいいんだよな。


「……俺だってやりたくなかったけど、やらざるを得ない状況に追い込まれたんだよ」

「へぇー、そう。まぁあちしには関係ないことだけど」


 なら聞くなよ。

 聞いてきたのはお前だろ。


「で、お前はなんでこんなところに居るんだよ」

「なんであんたにそんなこといちいち教えなきゃいけないのよ」


 こっちのことは聞くだけ聞いて自分は言わないつもりか。

 相変わらず卑怯な野郎だ。


「それよりあんた、ひょっとしてワンダーランドの通行証持ってたりするわけ?」

「いや、持ってないけど」

「相変わらず使えない落ちこぼれね! あんたにちょっとでも期待したあちしがバカだったわ」


 なんだとっ!?


「いい? 向こう側に行くためにはどうしてもワンダーランドここを通るしかないのよ。なのにっ、あいつら通行証がないと通さないの一点張り! もぉ〜頭に来んのよッ!!」


 自分の素性――神であることを明かせば通れそうな気もするが……。

 いや、仮にそれですんなり通れるようなら、ロキこいつがそれをしていないこと自体がおかしい。


 そう思案すれば、魔族街ワンダーランドには何かある……そう考えるのが自然か。

 ちょっと探ってみるか。


「やっぱりその……神であることを明かして強引に通らないのは、あれか?」

「……ちょっとウゥルカーヌス」

「な、なんだよ?」


 ロキが咎めるようなジト目を向けてくる。

 一体何だというのだ。


「あんた本当は何にも知らないんでしょ? あちしを誘導して情報をくすね取ろうなんざ百億万年早いのよ」

「うぅ……」


 なんでバレたんだよ。


「あんたって嘘をつくときケツの穴にきゅって力が入んのよ」

「なななななんでそんなこと知ってんだよ!? つーか見えないだろ!?」

「あちしの神眼をなめんじゃないわよっ!」


 天界の詐欺師トリックスターとの異名を持つこいつに駆け引きは厳しいか。

 なら、直球勝負に切り替えるまで……。


「ワンダーランドについて知ってることを教えてくれたら、一緒に街のなかに入れてやる。そう言ったらどうする?」


 値踏みするような眼でまじまじと見られる。あまり気分のいいものではない。


「……どうやら嘘はついていないようね。で、通行証もないのにどうやって入るってのよ」


 俺はここに来ることになった経緯を話した。


 ゴブリン村に行ったらダークエルフのクレアが居たこと、それからなぜか夜の妖精王ティターニアに謁見することになり、ここまで来てしまったこと。


「いいわ! そういうことなら交渉成立ね」


 話を聞いたロキは考える素振り一つ見せることなく、これを承諾。


 矢継ぎ早にスーツの内ポケットから金のブレスレットを一つ取り出した。

 それを俺に差し出してくる。


「なんだこれ? くれるのか?」

「あちしの神業で創った嘘と偽りフェイクリューゲよ」

嘘と偽りフェイクリューゲ?」

「これを腕に嵌めている間は神隠し――つまり神の存在感を消すことができるって優れものなのよ」


 神の存在感を消す?

 いまいち意図がわからないと首をかしげる俺に、ロキはあんたって本当にバカねと鼻で笑った。


「これだけ巨大な鉱山をまるごと街に変えて支配するなんて芸当が、ダークエルフにできるって本気で思ってんじゃないわよね?」

「え!? 違うのか?」

「ほんっとあんたってバカね。無理に決まってるでしょ。ダークエルフはたしかに強い種族よ。でもね、種族繁栄に欠かせない繁殖能力が弱い種族なの。つまり極端に数が少ないってこと。数で押されれば他種族に一気に殺られるくらいにね」


 でも――ロキは言う。


「ダークエルフは今も他種族を取り込み続け、勢力を拡大しているわ。今では要塞のような壁の中に城を構えた武装国家ってわけよ。んっでぇ、それを支援しているのが小憎たらしいハエってわけ」

「ハエ……って!? まさか地獄界のベルゼブブッ!?」


 苦笑するロキが御名答、乾いた声を吐き出した。


「もう分かってるとは思うけど、あの門の先はベルゼブブの縄張りテリトリー。一歩でも足を踏み入れたらあんたの存在も筒抜けになるわよ」

「――!?」

「だから嘘偽りフェイクリューゲで神オーラを消して人間に成りすます必要があるってわけよ!」


 もしもロキに出会さなかったらベルゼブブに弱みを握られるところだったってことか。


「でもなんでベルゼブブが下界に?」

地獄界あちらさんも地獄界あちらさんで色々あるんじゃないの? いくらあちしでも地獄界の事情まで知るわけないじゃない。ほんっとバカね」

「それにしても、お前が俺を助けてくれるなんて珍しいよな。てか初じゃないか?」


 言いながら、受け取ったブレスレットを装着する。


「お花畑を咲かせてんじゃないわよ。あんたの正体がバレたらこっちまで怪しまれるからに決まってんじゃない」

「………あっそう」


 ま、そうだよな。

 むしろそっちの方が安心できるってもんだ。なんせ相手は天界の詐欺師トリックスターである。

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