第19話 スケベェに心は踊る

「ぐふふ、これは堪らん!」

「神さまー!」


 コロッセオの換金窓口で大金を受け取っていると、嬉々とした表情で両手を広げたゴブゾウが駆け寄ってくる。そのままガバッ! と脚に抱きついて来やがった。


「オラ神様を信じてたべさぁー!」

「ゴブゾウは一体いつからあんなに怪力になっただがぁ?」

「小生はゴブゾウが勝つって信じてたじょ!」


 上機嫌でスリスリしてくるゴブゾウだったが、ゴブヘイとゴブスケの存在に気がつくや否や、キリッと鋭い眼光で睨みつける。


「何を言ってるべさ! オラが殺されるかも知れねぇってのに、二人は喜んでいたじゃねぇべか! おまけに神様から貰った大切な腹巻きを奪う気満々だったの知ってるべッ!」

「あ、あれは冗談だがや!」

「そうだじょ! ゴブジョークなんだじょ!」

「嘘つくなだべ!」


 怒りが収まらないゴブゾウに詰め寄られる二匹が、助けを求めるように俺の背後にまわる。俺の周りをグルグルまわって二匹を追いかけまわすゴブゾウの前に、アーサーが立ちはだかった。


「ゴブゾウ!」


 ズドンッ!


「痛ッ―――」


 ぶつかったゴブゾウをアーサーは力いっぱい抱きしめる。


「――って、なんだべっ!?」

「神様から聞いたよ! ジャンヌのためにあの怪物に勝ってくれたんだってね! ありがとうッ!!」


 素直に感謝されたゴブゾウはとても照れくさそう。


「君を村の防衛大臣に任命するよ!」

「仲間を助けるのは当然のことだべさ! 変態エルフからジャンヌを取り返すべ、アーサー!」

「うん!」


 そしてゆくゆくはアーサーからジャンヌを寝取ってやるべさ! って顔に書いてある。

 あきれたゴブリンだ。


「お前ら繁殖欲強すぎな」

「わてらは最弱モンスター言われてんだぁ」

「ゴブリンの平均寿命はとても短いんだじょ」

「そうなのか?」

「5年生きたらたまげたもんだぁ」

「短ッ!?」

「大抵は他の魔物や冒険者に殺されて生涯を終えるんだじょ」

「だげんどぉ、子をたくさん作ればゴブリンは滅びないんだがや!」


 なるほど。エロはゴブリンこいつらに取っての生存本能といったところか。

 十月十日母胎の中にいる人間とは異なり、ゴブリンはわずか一月ほどで生まれると聞く。

 その繁殖力の強さこそが、人間がゴブリンを根絶できない理由なのだろう。

 おまけに多種交配を好む変態種ときた。

 本当に厄介な生き物だ。


「ちょっと、変態エルフ言うんじゃないわよ!」

「あれのどこが変態じゃないと言うんですかッ! 僕のジャンヌにあんないやらしい恰好させて! その上みんなの前でわんわんプレ……変態じゃないですかッ!!」

「あ、あれは……そんなんじゃないわよ」

「ならなんだってんだべ? なしてあんなスケベェな恰好をさせる必要があるだべか?」

「んっだぁ、ゴブゾウの言うとおりだがや」

「変態の言い訳は見苦しいじょ」


 ド直球なゴブゾウたちに、クレアの顔が徐々に引きつっていく。


「それは、その……性奴隷としての雰囲気とか? あと、そう! 魅力的に見せるためよ!」

「つまりスケベェが魅力的だと理解した上でスケベェにしてるってことだべ?」

「つまりおめぇの面積少ない布っきれもスケベェパワーをアップさせるためのものだがや?」

「計算で着ていたんだじょ! 確信犯なんだじょ!」

「ち、違うわよッ」

「なら、なしてそんなにスケベェな恰好をしてるべか? オスを誘っているとしか思えねぇべさ」

「いやらしい匂いがプンプンするだがや!」

「小生を誘ってるじょ!」

「誘ってないわよッ!」

「んっなら、なんで常に下乳を見せてるだべか?」


 真っ赤な顔したクレアがギャン泣き寸前だ。恥ずかしすぎる指摘にプルプル震えている。


「ば、はかぁっ―――!!」


 ゴブトリオの集中攻撃に耐えきれず、どこかへ走り去ってしまった。


「――って、なんだよ!?」


 ニュースタイルなロキが超至近距離からガンをつけるを発動してくる。

 その顔面の無駄な迫力に驚いてしまった。


「面白くない!」

「は?」

「面白くないっつってんのよ!」

「何が?」

「なにもかもがよッ!」

「――あっ!」


 ヒステリックジジイが俺から大金の入った袋を引ったくりやがった。


「何をするッ! 返せッ!!」

「あんたあちしがミノタウロスに賭けてるところ見てたわよね! なんで止めなかったのよ! ざまあ見ろ! 大損しやがれクソ野郎って腹ん中でバカにしてたんだろうがァッ! あァン?」

「………いや、まあ………な」


 図星なので言葉に詰まってしまう。


「あんたのせいであちしは大損こいちまったじゃないの! こんなのはイカサマよッ!!」


 こいつにだけは言われたくない言葉、第一位である。


「負け分はきっちりあんたの勝ち分から回収させてもらうわよ!」

「ふざけんなッ!」

「ならあんたにやった嘘と偽りフェイクリューゲ返しなさいよッ!!」

「なっ!? 一度くれた物を返せって、無茶苦茶だろ!」

「無茶と書いて『ロ』と読み、苦茶と書いて『キ』と読むのッ―――二つ合わせてロキよッ!!」

「……」


 あかん。

 ロキのやつは完全にブチ切れている。


 天界の詐欺師トリックスターは他人を騙すことは大好きなのだが、その逆は大嫌い。

 俺に騙されたと判断したロキは、詐欺師トリックスターとしてのプライドを傷つけられてしまったようだ。

 結果、ものすごく機嫌が悪い。


「くそっ、勝ち分が半分になってしまったじゃないか」


 とはいえ、これだけあればエッチなお店で遊び放題だな。

 ぐふふ。


「よし! ジャンヌ杯は数日に渡って行われる。明日に備えて今日は宿で休むぞ!」

「オラまだ眠くねぇべ?」

「わてもまだ寝れねぇだがぁ」

「ご飯食べに行きたいじょ」

「たしかに少し早すぎませんか、神様?」

「うるさい! 俺が寝ろと言ったら寝ろ! 飯は露店で適当に買ってやるから、宿に着くまでに食えッ! んっでぇ宿についたら5秒で寝ろ! いいな、これは命令だッ!!」


 愚痴をこぼす彼らを尻目に、俺は宿まで急いだ。


 そしてその夜、皆が寝静まった頃合いをみはからい、俺はそっと部屋を出る。

 目指すはエッチなお店、娼館である。

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