第1話 ストリートビュー④桜の木

 しばらく歩くと、天厄神社の看板があった。割と街中なのにいきなり生け垣が続き、神社の入り口が現れた。そこには立派な桜の大木があり、桜の花は満開だ。ライトアップもされている。路上で酔いざましをしているようなカップルが、スマートフォンで桜を撮影している。思わず亮もカメラ設定にして、夜景モードで何枚か撮影した。


――これ、あれかな? 去年、働き始めた亜矢が職場の徒歩圏内にすごい桜の名所の神社があるって言ってたやつかな……。あの時、来年一緒に見に行こうって言ってたっけ。桜散るまでにまだ間に合うかな――


 あの時はへえ、と聞いていただけだったけど、実際に目にすると感慨深かった。なぜなら子どもの頃、亮の祖母がよく言っていたからだ。「亮、天厄神社のある場所というのは、昔、疫病が流行ったり、災害があって多くの人が命を落とした場所なんだよ。近くに行ったら手を合わせなさい」と。

 今、新型肺炎が世の中で猛威をふるっているように昔の人も苦しんできたんだろうなと思うと、亮は、それを見守ってきた桜の花と神社に、心の中で手を合わせた。

 その隣にはまた唐突に幼稚園がある。もちろん今この深夜に子ども達の姿はないけど。アライグマが手洗いしているイラスト入りで、「そとからもどったら、しょうどくしよう」と書いた貼り紙がある。中庭にはパンダやシロクマの遊具が置かれてある。亮は、自分と亜矢の子どもの頃を思い出し、ちょっと和んだ。

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