第1話  ストリートビュー③街へ出る

「右へ曲がります」

「左へ曲がります」

 スマートフォンを片手に指示通りに進むと、大きな通りに出た。こんな時間なのに交通量は多い。コンビニの明かりは煌々こうこうと輝いているし、24時間営業の大型スーパーマーケットの前には結構、客がいる。中にはキャラメルポップコーンの包みを抱えた子ども連れの家族もいるし。

 24時間営業の牛丼屋の中にいるのは、ちょっと疲れたようなサラリーマンや学生。中には女の人の姿も見える。


――そう言えば亜矢の勤める病院もこの界隈からそんなに離れていなかったのではないだろうか? 時々夜勤明けに牛丼屋に寄るって言ってたっけ。「女が牛丼屋なんて惨めっぽいからやめなよ」と言ったけど、それは自分の母親からの受け売りだ。昭和生まれの母は、牛丼屋で一人で食事をする女性にマイナスイメージしかない。自分が工務店に勤めるようになったのにも不満たらたらだったっけ。父親はお得意さんに信頼されるように頑張れと声をかけてくれたのに――


 牛丼屋の中にいる疲れたような客を見ているうちに、この一年、亜矢も初めての職場で疲れてたんだろうなと想像した。自分の事ばかりであまり本気で話を聞いてあげられなかった事を後悔した。

 牛丼屋に近付く。良い匂いがし、中から温かな灯りが漏れている。満足げな客の笑顔。


――なんだ、結構楽しそうじゃん。あいつも割とこういう店でリフレッシュして笑顔で店を出てたりして――

……なんて思いを巡らせる。

 気がつくと、遠く向こうに見える鉄塔。あそこにブルースカイ♡FMがあるらしい。

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