第38話 エピローグ 世界最強たちの戸惑い

 クロスが目を覚ました翌日。


 食堂に集まったリオーネ、リュドミラ、テロメアの3人は硬い顔をして、テーブルの上に置かれたそのステータスプレートを見下ろしていた。


 つい今朝方、学校に顔を出しに行こうとするクロスに渡すよう言っていたもので、スキル欄も含めてすべてが最新状態のオリジナルプレートだ。


「あー……つまりまとめるとこういうことか?」


 と、それまで愕然と言葉を失っていたリオーネが口を開く。


「いくら危険度リスク4を相手にしたギリギリの戦いだったとはいえ、クロスのやつはたった一戦でスキルLv熟練度を合計40以上もあげて、その上わけのわかんねースキルまで発現させたと」

 とんとん、と彼女が指さすステータスプレートのスキル欄には、以下の内容が記載されていた。


〈力補正Lv6(+47)〉  → 〈力補正Lv8(+64)〉

〈防御補正Lv6(+50)〉 → 〈防御補正Lv8(66)〉

〈俊敏補正Lv6(+47)〉 → 〈俊敏補正Lv8(+67)    

〈攻撃魔力補正Lv1(+7)〉→ 〈攻撃魔力補正Lv5(+40)〉

〈特殊魔力補正Lv1(+6)〉→ 〈特殊魔力補正Lv5(+41)〉

〈切り払いLv7〉      → 〈切り払いLv9〉  

〈緊急回避Lv6〉      → 〈緊急回避Lv9〉

〈身体硬化【小】Lv4〉   → 〈身体硬化【小】Lv7〉

〈身体能力強化【小】Lv3〉 → 〈身体能力強化【小】Lv6〉

〈ウィンドシュートLv1〉  → 〈ウィンドシュートLv5〉

〈ガードアウトLv1〉    → 〈ガードアウトLv6〉

〈体内魔力操作Lv3〉    → 〈体内魔力操作Lv5〉

〈体内魔力感知Lv3〉  → 〈体内魔力感知Lv5〉

〈体外魔力操作Lv1〉    → 〈体外魔力操作Lv3〉

〈体外魔力感知Lv1〉    → 〈体外魔力感知Lv3〉

〈クロスカウンターLv4〉  → 〈クロスカウンターLv8〉


     


 あまりにも信じがたい「直近のスキル成長履歴」の表示。

 そして極めつけは、スキル欄の最後尾に表示されたそのスキルだ。


〈イージスショットLv1〉


 半ば文字が崩れるかのように表記されたそれは不在エラースキルなどと分類され、スキル欄の端にはっきりと存在していた。


 クロスいわく、このスキルのおかげでロックリザード・ウォーリアーを倒せたとのことだが……戦士スキルと魔法スキル、および邪法スキルが統合されて生まれたらしいその意味不明な特殊エクストラスキルは最早3人の想定を完全に超えていた。


 そんなスキル、いままで見たことも聞いたこともない。

 下手をすると有史以来クロスが初めて発現した可能性さえある。


 スキルの成長を促す固有ユニークスキル〈持たざる者の切望シンデレラグレイ〉。

 そしてそんな反則級のスキルをもった〈無職〉が秘めていた不在エラースキルというあまりに底の知れない力に、3人は言葉を失っていた。


 そしてこの破格の将来性を秘めた旦那候補を前に、考えることは1つである。


(((こうなったらクロスを確実に手に入れるため、こいつらをここでぶちのめしてクロスを攫うという手も……)))


 あまりにリスキー、だがそれをやるだけの価値はある……と三者三様に殺気を募らせていたとき。


「あっ、探しましたよ三人とも!」


 学校から帰ってきたのだろう。

 食堂に入ってきたクロスは3人の姿を認めると笑みを浮かべ、


「もう体調も万全ですし、今日から修行再開するんですよね!? なんだか長いこと修行をしてないような気がしてそわそわしちゃって……あ、でも、もしかしてなにかありました……?」


 と、3人の殺気を遅れて察したらしいクロスの表情が曇る。


「あ、いや、問題ねーよ。着替えて先に中庭行ってなって」

「う、うむ、私たちもすぐに向かう」

「回復スキルの効果は完璧だけど、病み上がりなんだから無理しちゃダメだよぉ」


 そんなクロスの表情を受け、3人は慌てたように取り繕った。

 すると3人の言葉を受けたクロスは「はい!」と飼い主に遊んでもらえることになった子犬のような明るい返事をし、それから照れたように、こんなことを言うのだ。


「あの、いまさらですけど僕、師匠たち拾ってもらえて本当によかったです」


 そして未だ覚めやらぬ危険度リスク4討伐の喜びを新たな決意に変えるかのように、


「また今日から、よろしくお願いしますね!」


 無邪気な笑みを浮かべ、着替えのために食堂をあとにする。

 そんなクロスの様子を目の当たりにした3人はといえば、


(……ちっ、まあ色々と考えなきゃいけねーことはあるが)

(いまのところは……)

(ひとまずこのままでいいかなぁ)


 毒気を抜かれたように、あるいは驚くほどあっさりと殺意を払拭されてしまった自分の内面に戸惑うように顔を見合わせ――結局、これまでと変わらずに育成を続けていくことにするのだった。





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