5.離婚調停3回目



 十一月。今回は、財産分与と養育費の話がメインです。いつも通りに待合室に向かうと、おっと。今回は誰もいないんです。前回まで一緒だった男性は、話がついたのか、日程がずれたのか。ともかく、独りぼっちで待合室にいると、なんだか胸がどきどきとして、焦燥感に駆られました。


 今回はA氏から先に話をする予定。彼の話が終わり、また小太りの中年女性が顔を出します。私の番です。調停委員は、にこやかに「体調はどうですか?」などと世間話から話をスタートさせます。


 財産分与は、別居した日を起点とします。なので、通帳のコピーも生命保険の解約した後に戻ってくるお金も、その日を基準にします。もちろん、娘名義の口座の写しも必要です。

 車はローンの残っている普通車はA氏。軽自動車は私。娘たちの預金は、養育者になる私が管理すること。結婚生活の間、私の両親から譲り受けたお金は、私のもの……という感じで決まりまりました。


 そして問題は、養育費。私は二人合わせて七万円を請求。ところが、相手方は養育費の算定表を見て、五万より下の金額を提示してくるんですよ。おいおいです。A氏は、義母の家に住み、義母の庇護の元で暮らすんですよ。一方の私は、一軒屋の借家を借りて、一からの生計です。足りるわけないじゃないか。習い事させたら、子ども達のお金なんて、足りません。子どもたちに係る費用についてのリストを盾に、なんとか費用を吊り上げようと交渉します。


 ここで、離婚調停をしての教訓その二。ここでも自分だけ得をするなんてことはあり得ないということ。

 しかし、調停委員はこう言います。


「子どもさんを養育する義務は両者に発生します。したがって、子どもさんへかかる費用は両者で折半しなければなりません。つまり、雪さんも半分は出すということです。すると、金額的には、これも妥当なのです」

 

 嘘だろー。日本の社会は女性に冷たいと思いますよ。確かに、自分の希望で子ども達を養育する権利はいただきましたよ。しかし、養育するというものには、お金の手間だけではないものも発生するわけです。そういった苦労をしない父親が、金を多めに出したって、バチは当たらないだろうと、当時の私は強く思っていたのです。ですから、納得がいくわけがありません。もちろん、A氏の訴えには同意できません! と突っぱねました。


 調停委員は顔を見合わせて、「ではAさんにも、もう一度お話してみますね」と待合室へ。しばらくして、再度呼び出し。


「Aさんは、五万円でお願いしたいと言っています。その代わり、お母さんが夕食を作って持たせているのを継続します。ですから、その夕食分も踏まえて、五万でお願いしたいと言っています」


 え。養育費って、父親が払うものであって、祖母が払うのか? しかも、金じゃなくて、物。ごはん? と目が点。確かに、義母のところに寄せてもらっている娘たちを迎えに行くと、義母が夕飯を持たせてくれていたんです。それについて、費用などは、未だ払っていませんでしたが、A氏は、その義母の好意も含めて養育費は安くしてくれというわけ。


 ちょ、ちょっと。どう思います? それはそれ。これはこれじゃないかー! って心の中で叫びましたが、正直に言うと、呆れて、もう言い返す気にもなれませんでした。私は「せめて六万にしてください。一人三万。それで折り合います」と言いました。


 その後、A氏にそれが伝わって、養育費は間をとって、五万五千円。プラス義母の夕食付き、という訳の分からない折り合いがつき、あらかた話は決まったのでした……。


 本来は、そこで終了になるわけですが、そこに登場したのが、家裁の裁判官の人。昔のズートルビみたいなヘアースタイルに銀縁眼鏡。どうみても、ヲタクでしょうって感じの男性です。


 彼の話はこうです。ちょうど、養育費算定表が改訂されるとのこと。それが出るのが数日後だそうです。金額が上がるかどうかは不確かですが、その表を確認されてから、話を決めてはどうかという提案です。少しでも上がるなら、それはもちろん、願ったり叶ったり。本当は既にここに来るのだけでも疲れていたので、今回で終わりにしたいところでしたが、年明け早々に、最後の調停を開いてもらうことになり、三回目は終了となりました。


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