第3話 二人目の右腕の男
赤い男はるんるんと鼻歌を歌いながら走り、辿り着いたのは川だった。
近所にこんな川があった事を初めて知り、茉莉はきょろきょろと辺りを見渡した。家が無いわけではないが、住宅地というにしては静かだった。駅からも離れているし、大きなマンションが多いから人と目が合う事はなさそうだ。
そして上には大きな橋が架かっていて、赤い男はその下にスキップで走って行った。赤い男の向かう先は伸び放題になっている草が鬱蒼と茂っている。けれど躊躇なくその中に飛び込んで行き、掻き分けると木材が重ねられているのが見えた。
「ああ、探したよ。こんな所にいたんだね」
赤い男はえーい、とそれを蹴飛ばした。
するとその中には一人の黒く薄汚れた男が隠れていた。黒髪に黒目、黒いジャケット、黒いスラックスと見事なまでに真っ黒だ。
「やあやあ、よくもまあこんなところに」
木材に隠れていた黒い男は、くそ、と吐き捨てて飛び出した。
逃げようとしたようだったけれど、黒い男は茉莉を見た途端にびたりと足を止めた。
「お前!優先生の妹か!」
「せ、先生?」
「……よく見つけたなこんなとこ。さすが失せ物探し専門家の妹だ」
先生と呼ばれるような人物だったのかなんて茉莉は知らないし、失せ物探しの専門家だなんて事も知らない。
けれど黒い男は目をぎょろぎょろとひん剥いて、憎いとばかりに茉莉を睨みつけた。
「あ、あなた誰ですか……」
「ふん。聞いてすらねえってのか。俺はあんたの兄さんの右腕だった男だよ」
「右腕?でも、それは」
赤い男と同じ事を言われ、茉莉は首を傾げた。右腕というのは一人しかいないものではないだろうか。
説明を求めて赤い男を見ると、木材の中に潜って何かを探していた。そして赤い男はあったあ、と無邪気にはしゃいで飛び跳ねた。
「やあやあ、こんなところにいた」
手に持っていたのはどこかの高校の学生鞄のようだった。
それを見て逃げようとした黒い男は、しまった、と慌ててそれを取り返そうと飛び掛かった。その拍子に赤い男は鞄を落としてしまい、中身がぼろりと落ちてしまう。
こぼれ落ちたのは左腕だった。
「きゃあああ!」
茉莉は腰を抜かしてその場に倒れた。
左腕には人差指が無い。赤い男はポケットから先程拾った人差指をくっつけるようにして見ると、うんうん、と大きく頷いた。
にこにこと笑う様子は黒い男をも震え上がらせた。茉莉も赤い男があまりにも恐ろしくて、手足ががくがくと震えて立つ事ができない。逃げなきゃと思うのに、立ち方を忘れてしまった。
赤い男は妖しく微笑むと、ぐうっと黒い男の顔を覗き込み、片手で首を絞めて持ち上げた。地面から足が離れてしまい、ばたばたともがき苦しんでいる。
けれど茉莉にはそれを助けなければと思う余裕すらなく、その光景をただ見つめていた。
「
そう言うと、赤い男の姿はすうと消えた。
けれど二人目の右腕の男は宙に釣られたままだ。そしてそれを釣るしているのは――
「男の右腕……!」
ぷかりと右腕が浮いていた。
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