第2話 遺体との再会

 墓参りになど来なければよかったと心底そう思った。


 (何でこんなとこに……)


 赤い男はぴいぴいと口笛を吹きながらスキップをしている。

 逃げ出したいけれど、がっちりと腕を掴まれていてそれもできない。誰かが通りかかってくれれば助けを求められるのに、こんな時に限って誰もすれ違ってはくれない。


 (……待って。これ私どこに連れて行かれるの?)


 ぞわりと背筋が震えた。

 人のいない場所をこんな怪しい赤い男と歩くなんて危ない、とようやく気付いて足を止めた。

 けれど赤い男はそれを許さないというようにずるずると茉莉を引っ張り進んでいく。


 「あ、の、どこに向かってるんですか」

 「どこだろうねえ。強いて言うなら遺体のあるところさあ」

 「……探すってどこ探すんですか」

 「安心おし。死人に口なし遺体は饒舌というからね」

 「饒舌、ですか……」


 聞いた事無い、と言い返そうかと思ったけれどそれも怖くて何も言わずに頷いた。

 しかし赤い男は不思議なほど迷わずに進んでいく。きょろきょろと何かを探すわけでも無くずんずんと、まるで行先を定めているかのようだ。

 失せ物探しが得意だと言っていたし、もしかしたら本当に当てがあるのかもしれない。

 すると赤い男は急に歩みを止め、ううん、と眉間を抑えて低く唸った。どうしたんですかと聞くのも怖くて、茉莉はそのままじいっと待っていた。


 「むむ!こっちだ!」

 「え!?」


 急に赤い男は走り出した。

 前触れも無く走るものだから腕を掴まれている茉莉は転げそうになる。けれどそんな事にも構わず、赤い男は裾から足を剥き出しにして走った。

 ひょいと細い路地に入ると、茉莉をひっぱりながらしゃがみ込む。


 「何ですか……」

 「みいつけた」

 「何をですか」

 「ほらほら、あそこを見てごらんよ」

 「あそこって……」


 赤い男はビルの裏にあるごみ捨て場から溢れているゴミ袋の、さらにその裏の隙間を指差した。

 陰になっていてあまり見えない。赤い男はほいっとゴミを除けてそれを日の元に晒した。


 それは人差指だった。


 「きゃあああ!!」

 「おやおや。感動の再会なのに何を叫んでいるんだい?」


 それは間違いなく指だった。左手の人差指がころりと転がっている。


 「それ、ま、まさか」

 「君のお兄さんの左の人差指さ。いやあ、やっぱりここにいたんだねえ」

 「やっぱり、って……」

 「むむ!本体はあっちのようだ!」


 赤い男は平気な顔で人差指を拾うと、茉莉の話など聞きもせず再び力づくで引っ張り走り出した。

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