#エピローグ 僕は君のもの
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晴れて結婚したエミリーとジェームズ。あのビーナス像は大伯母が買い戻していた。ならば、結婚祝いとしてジェームズに贈られるのかと思いきや……?
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四月のよく晴れた日曜日、エミリーとジェームズは結婚式をあげた。
「あと十回、昼飯をおごってもらってもいいくらいだな」デイビッドが笑って言った。
「私がごちそうしてもいいわ」エミリーは言った。ジェームズの親友のデイビッドとはもうすっかり仲よくなっていた。「あのオークションのおかげで、ジェームズと出会えたんですもの」
「こいつが調子に乗るようなことを言わないでくれ」ジェームズは顔をしかめたが、すぐに笑顔に戻った。「まあ、昼飯くらい何度でもおごってやるが」
式には大勢の人たちが集まってくれた。家族、友人、それぞれの会社の同僚。もちろん、バーバラも。意外なことに、バーバラはチャールズ・バロウズと連れ立ってやってきた。
もっとも、意外ではなのかもしれない。ある意味では、ミスター・バロウズもこの結婚の後押しをしてくれたのだから。ビーナス像がオークションに出品された時の顛末には、誰もが驚かされた。バーバラはあとから自分で買い戻せるように、ビーナス像を競り落としてほしいと、ミスター・バロウズにあらかじめ頼んでいたというのだ。
「来てくださってありがとうございます、ミスター・バロウズ」エミリーは言った。
「あら、おじい様と呼んでもかまわないのよ」バーバラが口を挟む。「あたくしはジェームズの祖母のようなものですからね。つまり、これからはあなたにとっても祖母同然ということよ。祖母のボーイフレンドをおじい様と呼ぶのはおかしくないでしょう?」
「なら、僕もおじい様と呼ばないといけないな」ジェームズがわざと生真面目な表情で言い、一同の笑いを誘った。
「幸せになるんだぞ、エミリー」ミスター・バロウズが言った。
「ありがとうございます、おじい様」エミリーは目を潤ませた。
もうひとり、意外な人物が来ていた。クロードだ。バーバラに手招きされ、しぶしぶといった風情で人の輪に入ってくる。
「邪魔しないでやったぞ」
「なんだって?」ジェームズが聞き返す。
クロードは肩をすくめた。「伯母様はビーナス像を買い戻したんだから、あれは早く結婚したほうに贈られるんじゃないか? 君たちの結婚を邪魔しないでやったことが、僕の結婚祝いだ」それから、エミリーに言う。「色々悪かったな」
「どういう風の吹き回しだ?」ジェームズが尋ねる。
「大人になることにしたんだよ」クロードはぷいと顔をそむけた。
ジェームズはぽかんとしているが、エミリーはクロードの表情がジェームズの照れた顔に似ていることに気づき、口元に笑みをほころばせた。
「あら、でも、あれはやっぱり子供が生まれた時のお祝いにしようかと思っているのよ」バーバラが言った。
ジェームズとクロードが揃ってうめき声をあげる。
「こちらは老い先が短いんですから、急いでもらわないとねえ」
「伯母様は百年後も同じことを言ってるような気がしますよ」
ジェームズが呆れたように言った。皆の笑い声が青空に響く。
その時、兄たちの姿が目に入った。今日、兄たちは三人ともきれいな女性と一緒に来ていた。エミリーの知らない女性たちだ。
エミリーは軽く顔をしかめた。
ジェームズがそれを見て、苦笑いを浮べる。「おいおい、兄離れしたんじゃなかったのか? 君には僕がいるだろう?」そして、身をかがめ、ささやいた。「僕は君のものだ」
――僕は君のものだ。同じささやき声が頭の中でよみがえった。
エミリーはゆっくりと笑みを浮べた。
「知っているわ。あなた、はじめて出会った夜にそう言ったもの」
― 完 ―
【漫画原作】億万長者、買います! ― An Auction and a Billionaire ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1
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