♯12 この関係を本物にしないか?

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とうとうエミリーへの想いをはっきりと自覚したジェームズは、君がほしいと告げる。無理強いはしない、いつまでも待つから、と。


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 翌朝、エミリーは居間に集まった兄たちをにらみつけていた。兄たちにこれほど腹をたてたのははじめてだ。エイダンに勝手に薬を飲まされ、眠らされた。もちろん、三人とも了承ずみのことだ。ああいう時の三人の連携には、目をみはるものがある。ううん、感心している場合じゃない。

「どういうつもりなのよ?」

「いや、だから、ちょっとショックが大きすぎたようだから、眠ったほうがいいだろうと思って――」エイダンがもごもごと言った。

「私の了承もなしに? 勝手に? 兄さんたちはいつもそう。大事なことは隠して、すべて終わってから、涼しい顔で『何も心配ない』って言うだけ。私はもう子供じゃないのよ!」

「しかしだな――」

 ジェラルドが口を開きかけたが、エミリーは聞く耳を持たなかった。

「私はジェームズに命を助けてもらったの。そうでしょう? そのジェームズの意識が戻っていないのに、すやすや眠っていたなんて! 私には命の恩人を心配する権利もないの? いい加減にして!」

「エミリー」

 戸口からジェームズの声がした。

 エミリーはぱっと振り返り、すぐそちらに駆け寄った。

「ジェームズ、もう起きて大丈夫なの? 怪我の具合は? おなかはすいてない? 喉は?」

 矢継ぎ早の質問に、ジェームズは笑みを浮べている。

 エミリーは口をつぐみ、その顔を見つめた。少しやつれているというだけでなく、昨日までとどことなく顔つきが違う気がする。

「もう起きて大丈夫だし、傷も驚くほど痛まない。エイダン特製の薬を塗ってもらったのかもしれないな」ジェームズは三人に向かって笑った。

「正解だ」三人もにやりと笑う。

 エミリーは眉をひそめた。いつそんなに仲よくなったの? 私が眠っているあいだに?

 ジェームズはエミリーの表情を見て、苦笑いを浮べた。「そうそう、腹はへっていないが、喉は渇いたな」

「まだ部屋で寝ていて。水を持っていくわ」エミリーはジェームズを階段のほうにうながし、キッチンに向かった。出しなにもう一度兄たちをにらみつけるのを忘れずに。水のボトルを持って、階段を駆けあがった時、居間から三人の声が聞こえて来た。

「これが親離れか」

「兄離れだろ」

「どっちでも同じさ」

 そこに入ってきた母がため息まじりに言う。「あなたたちこそ、早く子離れしなさい。あら、妹離れかしら。まあ、どっちでも同じね。その気になれば、子離れなんて簡単よ」

 しゅんとする三人の顔が目に浮かぶようだ。もしかすると、兄たちは親離れもできていないのかもしれない。


 ジェームズがベッドに座ってすぐ、エミリーが部屋に入ってきた。隣に座り、水のボトルを手渡して、ジェームズがごくごくと飲むのを見つめる。

 ジェームズはボトルから口を離し、ひと息ついた。「ありがとう」

 エミリーの目にみるみる涙がたまった。「ありがとうって……私の台詞よ」

「エミリー」

 エミリーはうなだれ、自分の手を見つめた。「ありがとう。ごめんなさい、こんな怪我をさせて」

 ジェームズはエミリーの頬にそっと手をあて、自分のほうに顔を向けさせた。「そんな顔をしないでくれ」

「でも、ジェームズ……」

 ジェームズはふわりと唇を重ね、すぐに顔をあげた。「エミリー、この関係を本物にしないか?」

 エミリーはわずかに目を見開いた。

「あんなことがあったあとに言うものなんだが、昨日は正直なところ、もうだめかと思った。最後に見たかったのは、君の笑顔だ」

 ジェームズはそこで苦笑いを浮べた。「実際に見たのはハリーの顔だったが」

「ジェームズ……」

 再び、エミリーの口をふさいだ。柔らかく、温かな唇。じっくり味わいたいという思いはもう止まらなかった。唇を舐め、ついばみ、舌をもぐりこませる。エミリーがおずおずと舌を絡ませてきた。そのとたん、体に火が点いた。

 いったん口を離し、息を切らせたエミリーの首に顔をうずめる。ベッドに押し倒した時、エミリーがびくっと身をこわばらせた。

 ジェームズは我に返り、体を起こして、エミリーの顔を見つめた。怯えているのか? そして、アイリーンに立てた誓いを思い出した。

 エミリーをベッドから起こし、優しく抱きしめた。「この屋根の下で悪さはしない。誓いは守る」

 エミリーはほっとしたように体の力を抜いた。

「だが、ニューヨークに帰ったら――」

「ジェームズ?」

「僕は君がほしい」

「私……私は――」

 ジェームズはエミリーの唇にそっと人差し指を当てた。「返事は今じゃなくていい」

 エミリーは戸惑って、小首をかしげた。

「ニューヨークの僕の部屋からは、離れが見える」

 エミリーがうなずく。

「君は早寝早起きのほうだろう? 夜遅くまで仕事をして帰ると、君の部屋の明かりはたいてい消えている」

「ええ、私の部屋からもあなたの部屋の窓は見えるわ」

「僕を受け入れてもいいと思ったら、真夜中、十二時過ぎても明かりをつけていてくれ」

 エミリーはジェームズを見つめた。

「その合図をもらったら、僕が君の部屋に行く。急いで決めなくていい。僕はいつまででも待つ」

 静かな部屋の中で、かちこちと時計の音だけが響いた。エミリーは口を開き、何かを言いかけてまた閉じ、そしてうなずいた。

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