第101話 ゴールイン
その後も二人は体力が尽きるまで体を動かし続けた。
ボウリングにテニス、卓球にバスケ。
どれも一時間ずつくらいしており、どこからその体力が湧いてくるのかと見ているこちらが疑問に思うほどだった。
「ちょっとトイレ行ってきてええか?」
「どうぞ」
ただ、森山さんのツンデレは最後まで結局収まらず、運動している時以外は翔太が話しかけても顔をそむけて冷たく言うだけだった。
――まあ、例外なく顔は赤くなってしまっているのだが。
そして、トイレに行くといった翔太が、隠れていた俺たちに向かって歩いてくる。
「おう!ずっと見とってくれたか?」
「うん、ずっと影から見てたよ。」
貴司が代表して言った。
「じゃあ、わかったやろ。夏奈が俺に気がないってこと」
気丈に、だけどどこか悲しげな表情を含んだ顔をしながら、翔太は言った。
それに対して、
「ばか」
「あほ」
「鈍感野郎」
三人同時に声を上げる。
「えぇ……」
あまりの言われ様に、翔太は驚いて、口をあんぐりと開けたまま、固まってしまっている。
「そんなに言わんでも」
「いいから、このまま告ってきなよ!僕が保証してあげるから」
小学校からずっと親しい貴司が翔太に声をかける。
「貴司……」
「大丈夫。きっと成功するよ。」
彼女持ちで、一応ここにいる他の誰よりも恋愛はわかっているつもりの俺がそう声をかける。
「健太……」
「ま、振られたら俺が慰めてやるよ」
彼女持ちでも、昔からの友達でもないが一番のムードメーカーの裕太が最後に声をかける。
「みんな……ほんまやな?」
それでもなお、不安そうな目をしている翔太に、俺たちは同時にうなずく。
それを見て翔太は覚悟を決めたようだった。
「わかった……!ほな、行ってくる!」
◇◇◇
「……今日はありがとうな」
「ん」
「今日楽しんでもらえたか?」
「うん」
「そうか……」
帰り際。
翔太はなんとか告白しようと糸口を探しているのだが、森山さんの塩対応により会話が続かず結局気まずい感じになってしまっていた。
その様子を俺たちはもどかしい思いを抱えながら見ていた。
告白のタイミングなんて言うまでも難しい。
それに加えてこんなに会話が続かないと、告白も失敗するのではないかと思って余計に尻込みしてしまうだろう。
だけど、ここさえ乗り切れたら。
きっと二人は付き合えるだろう。
つまりここが最後の山場だ。
しかし、気まずげに歩く二人のスピードは自然と早く、あっという間に二人の別れる駅にたどり着いてしまった。
「……じゃ、今日はありがと」
「うん、こちらこそ、ありがとうな……」
ふたりとも引っかかるような表情を浮かべながらも挨拶をして、お互いに背を向ける……
ことはなかった。
なにか、特別な力に惹かれ合うような様子でお互いに向き合ったまま。
その状態でどのくらいたっただろうか。
二人の周りだけ時間が止まっているようだった。
「まだ、時間もあるし、どっかカフェ行かへん?」
翔太がその沈黙を破る。
その声を聞いて、森山さんは無表情で、でもどこか安心したような様子で頷いた。
◇◇◇(翔太視点)
「うまっ」
森山さんが、買ってきたフラッペを飲んで、久しぶりに顔を綻ばせた。
スポッティで運動に夢中になっていたとき以外、今日はあまり笑っていなかったので、一時間ぶりくらいだろうか。
「かわええ……」
「っ!」
「あ」
その様子を見ていてボーっとしていた翔太は思わず心の声を漏らした。
「いや、あの、今のはちゃうくて、あいや、違わんけど、えっと」
だんだん、夏奈の顔が赤くなっていくのが見えて、更に頭が混乱していく。
そしてそのまま、自分でも何を言うかコントロールできない状態になってしまう。
「いや、森山さんむっちゃかわええからな、これほんまやから、そこに嘘はないからむっちゃおれ森山さんのこと好きやし。付き合ってくれへん?えーっと、ん?」
あれ?
今俺すごいこと口走らなかったか?
夏奈も顔を赤くしたまま、口をぽかんと開けている。
「あ、ええとそういうことやから……」
無茶苦茶だ、穴があったら入りたい。
唇をかみしめて、俺は下を向いた。
「……フフ。なんか変な感じ」
予想と違った夏奈の声に顔を上げる。
見ると夏奈は顔を真っ赤にしたままだが、こちらを見て微笑んでいた。
「告白でいいんだよね?」
「お、おう……」
夏奈の確認に、小さく頷く。
「締まらないなぁ……もう……」
苦笑いしながら、でも、少し嬉しそうに。
「こんな私でいいなら、ぜひ。」
俺からの視線から逃げるように、顔を少し俯かせて呟いた。
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