第100話 ボルタリングで

「あかん!落ちろ!落ちろ!」

「よいしょっと。はい、これで勝ちだよね?」

「クッ!」


 カップルでボルタリングって何をするんだろう?と思っていた俺たち観察者オブザーバーだったが、始まってみればいかにも二人らしいという感じだった。


 どちらが高くまで登れるか。


 純粋に競い合うという様子は、一般的なカップルらしい、キャッキャウフフする感じではなく、軽い緊張感をも含むものだった。


「というかここまですら到達できないって翔太雑魚すぎん?まじで危ないとすら思わんかったよ?」

 ボルタリングにある凹凸に手をかけた状態で夏奈は後ろを振り返って翔太を煽る。

 その余裕そうな行動に対して、翔太は悔しそうに少し顔を歪めた。

「クッ……!手が滑っただけや!」

「はいはい。負け犬の遠吠え乙ー」


 勝負に勝ったことから来る高揚感からか、単純に距離が離れているからか、夏奈に先程のような不自然さはない。

 普通に友だちと話すときと同じようだった。


「せっかくだから、私もどれだけ高く登れるか試してみようかな?」

「やめろぉ!」

「まだまだ余裕なんだけど。ワンちゃん一番上まで行けるかも」

「……」


 これ以上夏奈に登られると、自分との差をむざむざと見せつけられてしまうことになる翔太は夏奈を力なく呼び止めるも、夏奈は聞かずにすいすいと登っていく。


 その様子を悔しそうに翔太が見つめていたその時。


「あっ――」


 右手に全体重をかけていた夏奈が手を滑らす。

 ――ドンッ

 そしてそのまま重力に従って地面に落ちた。


 それを見た俺達は一瞬ドキッとしたけれど、よく見ると、そこにはクッションが敷かれており、心配する必要はないようだ。


 が。

「夏奈⁉大丈夫か?」


 近くで夏奈が登っていく様子を見ていた翔太は弾かれたように夏奈のもとに駆け寄った。


 そして、顔を覗き込むようにして膝をついて声をかける。

「意識あるか?自分の名前言えるか?俺が誰か……」

「大袈裟。下にクッションあるから大丈夫。」

 焦る翔太の矢継ぎ早な言葉に被せるようにして、夏奈は一言ピシャッと言った。


「あぁ、ほんまや。焦ったぁ!」


 翔太はホッとしたような表情を浮かべる。

 そこで夏奈が顔を赤くしていることに気づいた。


 どうしたんだろう、と考えた矢先。

「顔、近すぎ」


 夏奈が消え入りそうな声でそう言った。

 その言葉で今の自分がどうなっているのかを自覚する。


「ホンマにすまん!マジでごめん!」

 飛び退くように翔太は距離を取る。


「……」

「……」

 気まずい時間ができる。


 が、その時間は長く続かない。

「と、とりあえずボルタリング一回やめよか」

 その空気に耐えきれなくなった翔太が次の行動を提案したのだ。


 ん、と言って立ち上がった夏奈を見て翔太はホッとしたように歩き出そうとする。

 その背中に向かって一言。

「さっきは心配してくれてありがと。うれしかった。」


 夏奈のつぶやきは翔太に届く。


 翔太は後ろを振り向かずに、気にすんなと呟いた。


 翔太の顔も赤く染まっていた。

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 ツンデレの夏奈がデれたぁ!



 100話到達しました!

 途中長期間のサボりを経てしまいましたが到達できて嬉しいです!

 初心に帰って頑張ります!

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