第95話 ある朝のモーニングルーティーン①
健太と鈴音の新居の朝は早くから動き出す。
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピピピピ――カチッ
「あっ」
5:30に設定した目覚ましを止めようと健太が手だけを伸ばすと、人の体温を感じた。
寝ぼけ眼を擦って目覚まし時計の方を見ると、同じタイミングで鈴音が手を伸ばしていたようで、二人の手は重なってしまっていた。
朝早くからすずと触れ合えるのは嬉しいものの、少し気恥ずかしさがこみ上げてきて、顔をさっとそらす。
「………おはよう」
が、しかし
「ん〜けんたくんおはよ~」
鈴音は全く恥ずかしくなさそうにふにゃふにゃとした声で返事をする。
その声を聞いて健太は一人苦笑いする。
そうだ。すずは朝スイッチが入るのが遅いんだった、と――
スイッチOFF状態の鈴音をベットに置いておいて、健太は顔を洗いに洗面台に行く。
そこでついでに手早く寝癖を直して(といっても髪が短いのでそんなに時間はかからないのだが)、リビングに降りる。
お茶を口に含むと、自室に入って動きやすい格好に着替えて、玄関に行ってランニングシューズを履き、家を出る。
同棲を始めてから、自分の中で一つ習慣にしていることがある。
それはランニング。
なぜって、そんなのもちろん野球部で活躍したいから――というのは表向きの理由でメインの理由はすずが好きな肉体を維持したいというものである。
以前新居に引っ越してきた際、荷物の整理をしていると、自分のものではないダンボールを開けてしまったことがあった。そのダンボールの一番上にあったのが
『筋肉フェチ必見!細マッチョ特集!』
とデカデカと書かれた女性向け雑誌。
――細マッチョ、だと……
その後タイミングよく入ってきたすずが顔を真っ赤にさせながら「私は細マッチョのページを読んだんじゃなくて後ろの方の料理コーナーを読んでるだけだし!」とか「そもそもこの雑誌は夏奈ちゃんに借りたものだから!」といっていたが目がグルングルンと泳ぎまくっていたからきっと嘘だろう。
となると、すずは細マッチョが好きであるということになる。
そっと自分の体を見下ろしてみると『細い』は満たしているものの、『マッチョ』の部分は満たしていないことに気がついた。
――まずい!
率直に頭の中に浮かんだ言葉はそれだった。
すずのことだから、きっと俺が細マッチョじゃないからってなにかを言うことはないと思う。
でも、もし細マッチョの男がすずに告白したら、すずはそっちの方に興味を持ってしまうのではないか……
NTRものの小説を最近読んだ俺は危機感を覚えたのである。
その後筋トレすると野球で打球が飛びやすくなるとか将来の健康に良いとかその他のメリットも聞いた俺は、すずとの同棲を機にランニングを始めることにした。
そして早朝ランニングを始めて思わぬメリットも見つかった。
頭がスッキリして、一時間目から集中して授業を受けることができるし、体力をつけることもできる。
そして何より朝食がうまく感じるのだ。
今まで家で食べてたときは母親が作ったものをただただぼーっと口に運んでいたが、ランニングが終わってから食べると、ちょうどいい具合にお腹が空いており幸せな気持ちで朝食を食べることができるのだ。
そんなわけで今日も今日とてこのあと食べる朝ごはんのことを考えながら一定間隔で腕と足を動かすのだった。 __________________________________________________________________
修学旅行だーって言って更新やめてから3週間も更新をサボってたやつがいるらしい。
ごめんなさい。
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