第88話 同棲中の初心カップル

 お互いに少し気まずい思いを抱えながらも、家から最寄りの駅に歩いていく。

(余談だが、この家は駅から徒歩2分のアクセスがいい一等地にあったりする。)


 ほどなくして駅につき、ICカードを改札口の機械にタップして、ホームに降りると、今日が休日だということもあって、かなりの人が電車に乗るために並んでいた。


 一人で並んでいる人もいれば、友達同士で並んでいる人。

 自分たちのように恋人同士で並んでいる人もいれば家族を伴って並んでいる人もいる。


 だけど、みんな考えることは『休日にお出かけをしたい』ということで一致していると思うと少しおかしかった。


 すずもそう思ったのかどうかはわからないが、先程の気まずさを感じさせない笑顔を俺に向けると、

「私達もあそこに並ぼ!」

 と上機嫌に言った。


 そんなすずを見ていると、俺も先程の若干の気まずさなんて簡単に忘れて

「そうだね!」

 と微笑みかけたのだった。

              ◇◇◇

 電車に乗り込む


 電車の中は駅のホームをも凌駕するレベルで混み合っており、電車が少しでも揺れると乗客に押しつぶされそうだった。


(今日は人が多いな……)


 そんなことを健太は心のなかで憂鬱そうに独りごちる。


 が、


 ――ギュッ

 手が誰かに握られる感覚を覚えた。


 恐る恐る手に目を向けてみると……

「すず⁉」

 すずが俺に手を繋いでいた。


「声が大きいよ。それに今更そんなに驚くことじゃないでしょ?」

「いや、そうなんだけど……でも握り方…」


 手を繋ぐくらいなら、今までだって何回もやったことがある。

 恋人なんだから当たり前だ。


 でも、今は相手の指と指の間に自分の指を挟み込む、所謂恋人繋ぎと言うやつだった。

 いや、恋人同士だから、こうやってつなぐことになんの問題もないのだが、今までしたことがないつなぎ方に驚いてしまっているのだ。


 そんな俺の様子に気づいてか、すずは明らかにニヤニヤし始める。

「あれ〜?びっくりしちゃったぁ?でも電車の中混んでるしこうやって繋いだほうが健太くんとはぐれづらいでしょ?だからしっかり握っててよ?」

「~~~~っ!!」

 声にならない声を俺は上げて、ギュッと唇を噛む。

 一方のすずも、余裕ぶっているが本当は恥ずかしがっているか、少し頬を紅潮させていたのだった。


 すると、背後からのんびりとした声が聞こえてきた。

「見てみて!あの子達初心だね〜。昔の僕達を見ているようだよ。」

「そうね。私達も最初の方はあんな感じだったものね!」

「「……」」


 ――ポッ


 生暖かい視線を向けてくる夫婦を前に、二人してただただ顔を赤らめるしかできないのであった。

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 いちいち顔を赤らめるなんてふたりとも初心だなーって思う人は星とハートを投げてください()

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