第83話 香川家にて②
「娘と仲良くしてくれてありがとうね!」
「あ、はい…こちらこそすず…鈴音さんにお世話になっています。」
ヤバイヤバイヤバイ。
この方、完全に俺のことをすずの仲のいい友達だと思ってるよ…!
鈴音の母、良子さんの本人にとっては何気なく発したのであろう言葉によって、俺はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
そうして、不自然な沈黙が訪れてしまったところで、孝則さんが二回咳払いをする。
「良子。健太くんを困らせるのはやめなさい。」
「だって、反応が面白そうだったんですもの」
「えっ…?」
思わぬ孝則さんの言葉に俺はあっけにとられてしまう。
――困らせる?反応が面白そう?
「えーっと、どういうことですか?」
状況がわかっていない俺が孝則さんとに説明を求めるよう視線を向ける。
しかしその言葉に反応したのは良子さんだった。
「いやね、実は娘からも夫からも、今日彼氏が来るとは聞いていたのよ。ただ、あなたを見た瞬間ちょっと意地悪をしたくなったの。許してね。」
ペロッと舌を出しながらいう良子さん。
「え、あー。なるほど…」
初対面でいきなり焦らせてくる良子さんにたじたじになってしまう。
しかし、そんな俺のことを助けてくれたのは他でもない、すずだった。
「もう⁉お母さん!健太くん困ってるじゃん!これ以上健太くんが困るようなこと言わないでよ!」
俺を良子さんから庇うように前に出て威嚇するように言葉を発するすず。
「すず…」
そんなすずの優しさに心が、キュンっと一瞬大きく跳ねる。
が。
「でもさー?健太くんってちょっといじめてみたら反応がかわいい気がしない?」
「そ、そそ、そんなことないしっ!」
「ほらほらー。そこのところどう思ってんの?」
「だからそんなんこと」
「正直に言っといたほうがいいと思うよ?これから付き合っていくならなおさら。」
「……まあ、ちょっとだけそんな気がしなくもないけど…」
「すず⁉」
結局良子さんに言いくるめられて俺のことを少しいじめてみたいと思っていると自白するすず。
助けてくれたはずなのにミイラ取りがミイラになっている状況に、俺は悲鳴を上げざるを得なかった。
更にその状況を見て孝則さんが笑うというカオスな状況に俺は思った。
――緊張していてもだめだ!もう自然体で行こう!
こうして緊張が吹っ切れてしまった俺は帰るまで自然体になって会話を楽しんだのであった。
◇◇◇
「そうだ!夜ご飯を一緒に食べに行かないかい?」
「いいわね!私としても、もうちょっと健太くんと話してみたいし!」
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです。じゃあ、ちょっと親に連絡しますね」
孝則さんの提案で香川家と一緒に夜ご飯を食べることが成り行きで決まった俺は、今日の夜ご飯は食べて帰るから俺の分は不要である旨を母親に伝えようと席を立つ。
すると、良子さんが、
「あー。その必要はないと思うわ。」
と言ってくる。
「え?いやーでも、わざわざ僕の分のご飯まで残してもらっていたら悪いですし…」
「大丈夫大丈夫!気にしないの!じゃあ行くよ」
そう言うと良子さんは立ち上がり、「先に車に乗っておくから来てね!」と言って部屋から出ていった。
「最後まで良子に振り回されてるな」
「いやぁ」
孝則さんに同情の視線で見られ、俺は苦笑いを浮かべた。
◇◇◇
「いらっしゃいませー」
「予約した香川です。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい…。お待たせいたしました。お席までご案内します。」
余談だが、到着したレストランは俺の家族もよく利用する中華料理店だった。
美味しい料理をリーズナブルな価格で食べられるとこの地域の中で密かに有名だったりする。
実は俺も、ここの『羽根つき餃子』のファンで、行き先がこの中華料理店だとわかった時、小さくガッツポーズした。
「こちらのお部屋になります。」
「うん、ありがとう。」
ウエイトレスの人に、店の中でも比較的大きな部屋に案内される。
しかし、その個室の扉の先には人の気配があった。
不審に思いながら、中に入ると、
「今日はお招きいただきありがとうございます。」
「森下さん、すみません。お待たせしましたかね?」
「いえいえ。我々もいま来たところです。今日はよろしくおねがいします。」
「えっ、えっ?なんでいるの?母さん!父さん!」
何故かそこには……俺の母さんと父さんがいたのだった。
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良子さん、恐るべしっ!
星やハート、フォローもよろしくお願いいたします⁉
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