第79話
★本編に戻ります。★
俺は直感的に、「今だ」と思った。
すずの目を見つめる。
大きく息を吸って、吐く。
そして意を決して発した言葉が俺の口を離れる。
「好きです。付き合ってください。」
何も飾らない、ごくシンプルな言葉だった。
「ッッッ!」
その言葉がすずの耳に届くやいなや、肩がビクッと震える。
そして―――
すずは何も言わずに保健室から小走りで出ていってしまった。
てっきり返事がもらえると思いこんでいた俺はそれを呆然と見送った。
一人保健室に残された俺はこう独りごちる。
「すず、もう俺の事好きじゃなかったのかな?」
一人でうなだれる。
衝撃の結末に涙も出てこなかった。
◇◇◇
鈴音は足の痛みを忘れて、無我夢中で自分の教室にいる親友の元へ走った。
「あ‼夏奈ちゃん!」
「ん?すずじゃん!一人でどうした…その格好どうしたの?」
「え?あ!直すの忘れてた。」
鈴音はさっき健太に湿布を貼ってもらったときにくるぶしまで下げていた靴下を引き上げる。
そしてその後、興奮冷めやらぬ様子でこう言った。
「ねぇ!聞いてよ‼健太くんに告白されたんだ!」
「……そう。良かったじゃない。おめでとう。」
てっきり、今日の終わりに告白するものだと思っていた夏奈は少し面食らいつつも冷静に返事をする。
―――いや返事をしてしまった。
それに対して、鈴音は不思議そうな顔をして夏奈に尋ねる。
「反応が薄いけど……もしかして知ってたの?」
「いや⁉何も知らなかったよぉ?」
夏奈の目が泳ぐ。
明らかに焦っていた夏奈だったが、鈴音はそこに気づいた様子はない。
「そう?まあいいや!まさか告白してもらえるとは思わなかったよ!」
「本当に良かったね!」
「うん!」
鈴音が満面の笑みを浮かべる。
一方の夏奈はある違和感にとらわれていた。
「ところで、健太くんは?」
付き合ってすぐの男女がすぐに別行動をするだろうか?
そう思い尋ねると、鈴音は思案顔になる。
そして気まずそうに呟いた。
「………おいてきちゃったかも。」
「は⁉」
「それどころか、告白に対して返事してなかったかも………」
「はい⁉」
夏奈は頭を抱える。
そしていま鈴音から聞いた言葉を頭の中で要約すると、、、
「健太くんに告白されて舞い上がって、健太くんを置いてきちゃったってこと?」
「そういうことであります…」
夏奈はハァとため息を付きながらすずに語りかける。
「おっちょこちょいのすずらしいんだけどね、次にやるべきことはわかる?」
「健太くんのところに行って、告白の返事をすることです……」
「わかっているならよろしい」
そう言うと、夏奈は鈴音の背中をすっと押した。
それを合図に、鈴音が歩き出す。
「まったく……最後まで世話が焼けるんだから」
夏奈の呟く声は文化祭の喧騒に掻き消された。
________________________________________________________________________________________
8万PV突破!
いつもありがとうございます!
次回最終話?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます