最終話 ありがとう。

 夕方。


 文化祭はフィナーレを迎え、今は校庭でキャンプファイヤーが行われていた。


 友達と談笑するもの。

 一人で立ち昇る火を眺めるもの。

 文化祭の成功を喜び、余韻に浸るもの。


 色んなものがいる中でも異質な雰囲気を醸し出しているものがひとり座り込んでいた。


「なんで振られたんだろ」

 健太の口から無機質な声がこぼれ落ちた。


 すずが保健室から出ていった後、どうにか図書室に行った健太は、ひたすら自問自答を繰り返していた。


 俺の何が間違っていたのか?


 告白するタイミング?

 そりゃちょっと急すぎたけどあんな反応しなくたっていいじゃないか。


 告白する場所?

 保健室で告白って普通に考えたらありえないし、ちょっといやらしいけど…やっぱりあんな反応普通はしないよな。


 こんな感じでひたすら自問自答しているうちにわかってしまったのだ。



 前提としていた、ということが間違っていたのだ。


 すずに告白されてから二ヶ月ちょっと。


 すずは俺のことが好きなのに違いないという驕りがどこかにあったのだろう。

 すずの気持ちが俺から離れる、あるいは、最初からなかったのではないかということに考えが及んでいなかったのだ。



 ―――俺って馬鹿だな。―――


 すずに振られてからわかるなんて、変な話だ。


 その後図書館からどうにか校庭にやってきて、今に至る。


 煌々と燃え上がるキャンプファイヤーを見ながら、思いを馳せる。


 すずと出会ったときのこと。

 すずとの楽しかった思い出。

 すずと付き合った後の妄想。


 そして、今頃俺の隣りに座っているとついさっきまで信じて疑わなかったすずの姿。



 目の前の光景が霞む。


 俺、失恋したんだな。


 ようやく自分の感情に名前をつけられそうになった、その時、



 ――ギュッ――

「?」

「ハァ、ハァ、もう探したんだからっ!」


 いきなり誰かからバックハグされて、軽く混乱していると、懐かしく、そしてずっと待ち望んでいて、しかしもう聞くことができないと覚悟していた声が聞こえてくる。



「すず?なんで…」

 俺のこと嫌いになったんじゃないの?

 そう口にする前にすずが口を開く。


「ほんっとにごめん‼告白に対する返事するの忘れてた‼」

「え」

「私も健太くんのことが好きです!こんな私でよかったらお付き合いしてもらえると嬉しいです‼」

 すずが華奢な腕に力を込めるのがわかった。


 しかしそんなすずの腕をすり抜けて俺は解放された状態になる。


 そして。


「ありがとう」

 静かに、強く今度は俺からすずを抱きしめた。



   すずとのこの恋人関係がいつまでも続きますように。



 煌々と燃え上がるキャンプファイヤーをバックに抱擁を交わしながら心のなかで、切に願った。


 世界がキャンプファイヤーに照らされて、明るく見えた。


 しかしこの願いはすぐに潰えることになることを、俺たちを含めた誰も、このときまだ知らない。――――

           ――第一部完結―― ________________________________________________________________________________________

 とりあえずこの後のことは次のあとがきで書くので、皆さんフォローを外さないでいただけると嬉しいです!



 以下お知らせです!

 https://kakuyomu.jp/works/16817139556540516922

 僕の作品「ヒット・フォー・ユー(カクヨム甲子園」がカクヨム甲子園・ショートストーリー部門で中間審査を突破しました!


 高校野球に関連する話となっています。

 まだ読んでいない方は読んでいただけると嬉しいです。

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