第78話 

「次どこ行く?」

「あー午後だよね。うーん…」


 午後のプランを決めてなかった俺は、すずにこのあとどのように過ごすか尋ねる。


 どこかに行きたいところがあったらそこに付き合おうと思っていたのだが、すずの表情は思っていたよりも芳しくない。


「どした?なんか気になることでもあった?」

「いや、、、」

 すずは少し迷う素振りを見せた後、諦めたように口を開く。


「本当に恥ずかしい話なんだけどね、お化け屋敷の中で足をくじいちゃって、、、」

「え⁉」


 驚いたように俺が大きな声を上げると、すずは苦笑いする。

「とは言っても軽くだよ?だから心配するほどでもないんだけど」

 顔では笑っているが右足に負担をかけないように立っている。


 かなり痛いのかもしれない。

「気付けなくてごめん。」

「いいって。そんな痛くないし」

「それ嘘でしょ。さっきも歩くスピードが若干遅い気がしたし、いまも右足ちょっと浮かせて立ってるでしょ。痛いなら無理に歩き回らないほうがいいよ」


 そう声をかけると、すずはクスッと笑った。

「健太くんには敵わないや。じゃあ健太くん。私と一緒に保健室に行ってくれる?」

「もちろん」


 歩き出そうとして、ちょっとした出来心ですずをからかってみることにした。

「足がいたいなら、お姫様抱っこしようか⁉」

 ほんのしたさっきの意趣返し。でも効果は思ったより抜群だったようで―――

「ふぇっ⁉ば、ば、ばかなんじゃないの⁉」

「ん?冗談だけどなんでそんなに本気にしてんの?」

「もう!ばか!」

 俺のことをポコポコと殴ってくる。

 ただあまり痛くないどころか、叩くたびにすずがつけているであろう香水の匂いがふわっと漂ってくる。


 この匂いはホワイトフローラルだったかな?どこかで匂ったことがある気がするのだが、どこで匂ったかは思い出せない。


 まあいいや。とりあえずすずを保健室に連れて行こう。


「まあお姫様抱っこは冗談としても、あるきにくいだろうから肩貸すよ?」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせていただくね?」

 そう言うとそっと俺の肩に掴まるすず。

 おれはすずに負担がかからないようにゆっくりと歩いた。

              ◇◇◇

「誰もいないね。」

「誰もいないな。」


 保健室に来たのはいいものの、養護の教師も文化祭を回っているのか保健室はもぬけの殻だった。


「とりあえずそこに座っといて」

「わかった」


 すずを腰掛けさせてから棚の中にあった薬箱を物色して湿布を取り出す。

 養護の先生がいないわけだし、勝手に使っても大丈夫だろう。たぶん。


「すず痛いところはどこ?」

「あ!貼ってくれるの?えーっとちょっとまってね、、、」

 そう言うとすずは靴下を脱ぐ。

 すっと白い足が現れて、思わず目をそらす。


「ここに貼ってくれる?」

「おっけ」


 急に恥ずかしくなった俺は、手早く湿布を貼ろうとする。

「ヒャッ⁉くすぐったい、、、」

「ごめん!」

「……」

「……」

 沈黙が訪れる。


 ただこの沈黙はなぜか今までで一番心が落ち着くものだった。


 俺は直感的に、「今だ」と思った。

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