第69話 決着
「お前は、、、、!」
そう言うと、男は周囲をさっと見回すと、俺の手を引っ張りを家に連れ込もうとしてきた。
「何するんですか!」
「だ、黙れ!これ以上喋るなら、、、」
男の目は殺気立っていた。
その時になって俺は初めて一人できたことを後悔した。
――あのときのすずもこんな気持だったのかな。
他人事のようにそう考えていると、男が続ける。
「健太にさわるな!」
「お前、球場におったときから目障りやったんや」
聞き慣れた声が2つ、俺の背後から聞こえる。
驚いて振り向いた瞬間、貴司がスマホを構えて
―――パシャッ―――
「決定的な写真は取らせていただきました。これを警察に突きつけたらあなたはきっと逮捕されますよ。」
「チッ」
そう言われてどうしようもなくなったのか、俺から手を話す。
俺は、息巻いて男と対峙している裕太と翔太を横目に見ながら、貴司に声をかける。
「なんでここがわかったの?」
「なんでって、健太の後を追ってきたからだけど?」
「え⁉ペンギンズの胴上げは?」
「見たかったけど、お騒がせな誰かさんのせいで見れませんでした」
「でも、おれみんなには急用って言わなかったっけ?」
「いやタイミングと、あのときの健太の表情をあわせて考えたら、あの人となにかあったのかなーって思ったっていうこと」
「あー」
「意外と自分の顔に表情が出やすいんだってこと自覚しといたほうがいいよ。」
「お、おう」
俺と貴司がこう会話している間に、裕太と翔太はさらに詰め寄る。
「なんや、なんで健太の腕を掴んどったんか教えてもらおか!」
「こっちが納得しなかったら、このまま警察生かしてもらうよ。」
「いやいや!やめてくれ!俺はちょっと酔ってて、気がついたら彼の手を掴んでしまっていたんだよ。アハハ」
と見苦しい言い訳をする男。
そこにさっきのさっきだった雰囲気はなかった。
そろそろみんなにその男が、すずを襲った犯人だって行ったほうがいいかなと思い口を開いた瞬間。
「おい。うちの家の前でどうしたんだ?利英?」
「あ!パパ!おかえり‼」
かなりいかつい人がやってきた。
この口ぶりからして、ここの家の人だろうか?
そしてこの男はもしかしなくても親のすねをかじっているのだろう。
「聞いてよ!野球から帰ってきたらこの少年たちに絡まれたんだよ〜パパ助けてー」
お父さんに猫なで声を出して甘えるその男。
あまりにも急激に態度が変わったのでみんなポカンとしている。
そんな中折れはどうにか口を開けた。
「夜分遅くに申し訳ないです。実は息子さんは女子高校生を襲おうとしたことがあるんですけど、その時僕を見て逃げたんです。その女子高校生は心に小さくない傷を負いました。だから、僕は息子さんは捕まるべきだと思います。だから、、」
「息子で間違いなのか?」
すごい圧をかけながらこの男性は聞いてくる。
正直怖い。
ガタイも良くて、顔つきも怖いのだ。
そんな人に「間違いないのか」と聞かれたら「間違いかもしれません」というしかないだろう。
普通は。
でも今回はそういうわけには行かない。
すずの心に傷を負わせた相手に引くわけには―――
「間違いありません。彼が犯人です!」
男の父が息を大きく吸って、吐く。
「こんなことはしたくなかったんだけどな」
そう言ってポケットを漁りだす。
出てきたのは…手錠だった。
「9月26日午後10時13分。強制性交等罪で三島俊英を逮捕する。」
「なんで⁉僕は何もしてないよ!僕を信じてよ‼」
「俺は最後まで信じてたよ。」
「じゃあなんで⁉」
「これを見ろ」
そう言うと今度は持っていた鞄の中を漁ってある紙を出した。
そこには『逮捕状』と書かれていた。
「うちの息子がそんな事するわけがないと思っていたよ。でも目撃人がいるならしょうがないな。」
「そんなぁ、、、」
「刑務所で罪を償って来い。ほら、行くぞ!」
「君たちも悪かったね。うちの息子が迷惑をかけたようだ。済まない。」
そう言うと頭を俺たちに深々と下げる。
「いえいえ!僕達は大丈夫です。」
「そうか。ありがとう。では被害者の方にも伝えてくれ。それでは」
そう言って息子を連れて去っていった。
「俺たちも帰るか。」
「そうだな。」
激動の一日を過ごした俺たちはその後何か言葉をかわすだけの元気は残っていなかった。
ただ、すずを襲った犯人を逮捕させることができたという満足感に満たされていたのであった―――。
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第69話を読んでいただいてありがとうございました。
次回は17日(月)12:00に更新予定です!
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