第68話 追跡
あの日。
すずの目から光が失われていたあの時。
確かにすずの家の中にいたのはあいつだった。
きっとあいつはあの日のことですずが心にかなり深い傷を負った事も知らないのだろう。
―――絶対許せない
警察に突き出してやる。
俺は歓喜に沸くスタジアムの中で、密かに決意した。
◇◇◇
と言っても、他の四人はすずが襲われたことは知っていても、犯人の顔を知らない。
おそらく犯人の顔をはっきり知っているのは俺とすず、そして警察の人だけのはず。
ここでほかの三人を巻き込むことはできない。
だから一人で決着つけてやるんだ。
そう考えていると、その男は観客席から立ち上がった。
スタジアムの退場ゲートに向かっていくようだから、このまま帰るのだろう。
まだペンギンズの胴上げなどは終わっていなかったが、俺も尾行するために、
「あ!俺、急用思い出した!悪いけど先に変えるね!じゃあね」
と言い残すと、俺も退場ゲートに向かった。
◇◇◇
男の追跡をしている間に、俺の機嫌は更に悪くなった。
もちろん男の行動のせいで、だ
自分が応援しているチームが負けたことへの腹いせに、ペンギンズのユニフォームを着ている人一人ひとりに突っかかっていたり、
ペンギンズのグッズを持っていた若い女性に対して、自分からぶつかりにいっておいて
「おい、ねぇちゃん。ぶつかったぞ。これどう落とし前つけてくれるんかなぁ?ぐへへ」
などと声をかけて女性を怖がらせたり。
気持ち悪いと思うのはもちろんのこと、すず以外にもこうして怖い思いをさせているのだと思うと、腹の底からムカムカしてきた。
挙句の果てには電車に中で酔いが回ったのか、電車の床で大の字で寝て電車の通路を塞いでいた。
でも、ここで俺が突っかかっていってしまうと電車の中でこの男が暴れてしまうかもしれない。だからこの男が家につくまでは拳を握りしめながら黙って見ているしかなかった。
◇◇◇
その男は高級住宅街の近くの駅で電車から降りた。
それまで暴れていた男だったが、駅を降りてからは住民を意識しているのか、静かに一人歩いている。
まさか男はこんないいところに住んでいるのだろうか?
――いや、それはないか。
俺は馬鹿げた自分の考えを否定する。
女子高生を襲おうとしているような人だから、こんなお金持ちばかりが住んでいるような場所に住んでいるわけがなく、どうせネットカフェにでも泊まっているのだろう。
だから男が家についたときには、俺は絶句した。
そこにはすずの家よりも大きい家があった。
――この人こんな大きな家に住んでるの⁉
俺の頭は混乱し始める。
こんな紳士の要素のかけらもない人が?こんな大きな家に?
そう考えるといても立ってもいられなくなって、俺はその男に声をかけた。
「あのー、すいません。僕に見覚えありますか?」
声にしてから失望した。
男に対して、ではない。
さっきまであんなにこの男に対して嫌悪の感情を抱いていたのに、圧倒的な経済力を目の前につきつけられただけでこんなに怯んでいる俺に対して、だ。
そんなふうに自分に嫌気がさしていると、その男は俺を怪訝そうに振り返った。
そして、
「お前は、、、、!」
そう言うと、周囲をさっと見回すと、俺の手を引っ張りを家に連れ込もうとしてきた。
「何するんですか!」
「だ、黙れ!これ以上喋るなら、、、」
男の目は殺気立っていた。
その時になって俺は初めて一人できたことを後悔した。
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読んでいただいてありがとうございます(更新遅くなってすみません)
このシリーズ全体のハートの数が2000超えました!
ありがとうございます!
全体の文字数も10万字がもうそこまで迫ってきているのでがんばります!
次回は14日(金)の19:00二更新予定です!
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