第46話

 ―――遅い。

 俺はそう思った。


 待ち合わせ時間として約束していた時間から、20分くらい過ぎようとしているのだが、すずが現れる気配はない。


 すずは抜けているところはあるが、それ以上に約束は守っていたはずだ。


 とりあえず、すずに電話をかけてみることにした。


「もしもし。すず?今どこにいるの?」

「あぁ、健太くん、、、ごめん、えーと、、、今日予定があったこと忘れてたんだ。だから今日はパンケーキいけないかな、、、」

「そっか、、、仕方ないね‼気にしなくていいよ!」

「うん、私のせいでごめんね。じゃあ、ばいばい。」


 、、、やっぱり何かがおかしい。

 具体的にどこがおかしいのかと聞かれると、答えられないが、ただ予定があったのを忘れたような感じではなかった気がする。

 長い時間悩んだ末、以前もらっていた森山さんの電話番号に電話をかけてみることにした。


「はいはーい」

「テンション高いな!」

 これが陽キャの力か。恐ろしいものだ。

「そうかなー?で、どうしたの?」


 森山さんの言葉で我に返った俺は、いま起こっていることを大雑把に説明した。その間、彼女の相槌のトーンはだんだん暗くなっていった。


「、、、ということなんだけど、なんか変な感じしない?」


 俺が話し終わって、森山さんに意見を尋ねると、森山さんはさっきまでとは打って変わって静かに告げた。


「森下くん。私の思い違いだったらいいのだけど、、、でも少し心配なことがあるからちょっとすずの家に行ってあげてくれる?」

「え⁉いや、女子の家に俺が行くわけには、、、」

「ごめんね。でも私、いま家の近くにいないからすずのところに行けないんだけど、わたしが心配してることが今起こっているとしたら一刻を争うことなの。だからお願い!」


 これはただごとではない。それは森山さんの声色から十分に伝わってきた。その勢いに押されるような形で

「、、、わかった。」


 と少し緊張しながら言ったのだった。


「ありがとう。じゃあすずの家はどこにあるかわかる?」

「いや、わからない。」

「じゃあLINUで送るから行ってあげて。」

「わかった。それじゃ」


 その後すぐに、家の位置が送られてきた。見ると住宅が少ないところの、さらに外れに位置しているようだった。とりあえず、そこに向かって走っていった。

                 ◇◇◇

 あー。なんで素直に助けてほしいって言えなかったんだろう。

 今、私香川鈴音の上に男の人が馬乗りになって私の服を脱がせようとしています。


 さっき健太くんが電話をくれた時はまだ男の人は外にいました。


 健太くんに心配をかけたくなかったのでとっさに嘘をついて今日の約束をキャンセルしました。


 でも、電話が終わった後、男の人が持っていたバットで窓ガラスを侵入してきて、、、あっという間に馬乗りされてしまった。


 そのあと、『おれたちは両思いだからなぁ』みたいなことを言いながら、私の服に手をかけてきた。


 その瞬間に、この後何をされるのか察した。


 私は、気持ち悪くて大嫌いな人に処女を取られる。


 自分の心が壊れかけていくのがわかった。


 あぁ。

 健太くんがいまいてくれたらな。


 なんて都合のいい想像をしていたその時。



 私に覆いかぶさっていた男の人が、左に吹っ飛ぶのが見えた。


 そして、そこには、、、


 激昂した様子で犯人を睨む、健太くんがいた。

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