第24話 練習試合②

 その後、裕太はヒットも打たれながら、無失点に抑えて迎えた7回の裏、城北高校の攻撃

 先頭バッターは、1番の吉田先輩。

 試合が始まってからヒットどころかランナーすら出せてない俺らのチームは、お通夜みたいな雰囲気になっていた。

 ―カンッ

 しかし、その吉田先輩がバットを短く持ちバットにボールを当てると、根性でライトの前に打球を落とした。

 吉田先輩――キャプテンである一方で、チームの精神的支柱でもある――が打ったことでベンチはいきなり活気づいていたし、当の本人もようやく自分にヒットが出て嬉しそうだった。

 ―――すごい!野球って、たとえこんなに負けていても、ヒット一本でこんなに盛り上がるんだ!

 そんな状況に身を置いて、俺は野球の力を体感し、身震いしていた。

 その後、2番の先輩がバントで走者を二塁に送った。

 そして、今日最初のチャンスにバッターボックスに入ったのは――途中から登板した、裕太だった。

 二塁ベース上の吉田先輩から、裕太にヒットエンドランのサインが送られる。

 そして、相手のピッチャーが初球を投げる。

 そのボールは真ん中にきた半速球だった。それをフルスイングして裕太のバットがとらえた捉えた。

 打球は伸びて、伸びて、伸びてレフトの頭の上を越した。

 結果、二塁ランナーの吉田先輩はホームに帰ってきて、裕太は送球の間に三塁を陥れた。

 三塁ベース上でドヤ顔をしている裕太を見て、俺は本当にすごいな、と思った。

                  ◇◇◇

「12ー1で桜井学園の勝利です。互いに、礼!」

「あーっしたー!」

 主審の人に促されてお互いに礼をする。

 あのあと、裕太はツーランホームランを打たれた以外は完璧に抑えた。

 そして、俺は、、、8回ツーアウトの場面で、代打として打席に立ったが、バットにかすりもしなかった。

 まだまだ練習しないといけないな、と痛感した。

 意識を今に戻すと、裕太が相手の先発ピッチャーと話し込んでいた。

 何を話しているんだろうと、思って行ってみると、相手ピッチャーにストレートの投げ方を教わっているところだった。

「これを、ここから、、、へー!そうやって投げてるのか!ありがとうな!参考させてもらうわ!」

「僕は、普通の投げ方だと思うし、参考になるかどうかわからないですけど、こちらこそありがとうございます!教えてもらったカーブ、帰ってから試してみますね!」

「おう!肩だけは壊さないようにな!」

 裕太は、カーブの握りを教えたらしい。というか相手の人、すごく礼儀がいい。

するとこちらに気づいた二人が近づいてくる。何も言わないのも変だと思って、

「ナイスピッチングでしたね!」

と言った。すると、ピッチャーの子が、わざわざ帽子を取って、

「ありがとうございます」

と返事をしてくれた。それが嬉しくて、

「いや、同級生なんだし、タメ口でいいよ!僕は森下って言います。」

「そういや俺も名乗ってなかったな。俺は冨樫だ。改めてよろしく!」

「あ、はい、、、僕は中村って言います」

そのあと、お互い連絡先を交換して別れた。

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