第23話 練習試合①

 桜井学園、国民の誰でもきっと一度は耳にした事がある高校である。

 去年の夏の甲子園に初出場を果たすと、初戦で優勝候補の高校と当たるも下馬評を覆して勝利し、そのままの勢いでベスト4まで進出した。ニュースでは連日、桜井学園の快進撃をピックアップして伝えたため、「桜井旋風」が巻き起こった。

 その、桜井学園である。

 大橋監督は

「個人的なコネがあるからねぇ」

 なんて言っていたが、それが本当なら凄すぎる。一体あの人は何者なんだ、、、

 そう思いながら、今までよりも一層練習し、試合当日を迎えた。

                  ◇◇◇

「今日はよろしくお願いします!」

 桜井学園の人は、バスから降りてくると口々に大きな声で挨拶をしてくれる。強豪校は挨拶から違うんだな、と早くも弱気になっていると、そんな俺の様子を見ていた吉田先輩が、笑いながら衝撃の事実を口にする。

「まあまあ、そんなに気負わんでいいよ!相手も気負わず行こう!」

 、、、え?二軍⁉︎

 そう思っていると、翔太も同じ事を考えていたのか、

「なんやて!相手は二軍なんか!舐められたもんやな!」

 と、息巻いている。そんな翔太を見て、吉田先輩は、

「試合が終わった後も、おんなじことを言えるかな?」

 と、謎の予言をしていた。

                  ◇◇◇

 1回の表、桜井学園の攻撃が終わった時、スコアボードには6が書かれていた。

 1番バッターにいきなりセーフティーバントで出塁を許すと、あれよあれよと言う間に6点が相手に入っていた。

 俺はベンチから見ていたが、力の差は歴然だった。

 さっき、なんだ、二軍かよ って思っていたが、むしろ、二軍でも胸を借りるつもりで行かないといけないんだ、と言うことを痛感した。


 一回の裏。城北高校の攻撃。

 バッターボックスには吉田先輩が入った。

 一方マウンドには、俺たちと同じ一年生なのか、緊張してそうな顔のピッチャーが立っていた。

 ――――このピッチャーなら、この回3点くらいは取れそうだな。

 そうベンチにいるメンバーは全員そう思っていた。


 初回の攻撃は3人で終わった。

 吉田先輩曰く、球速はそんなに早くなかったけど球の軌道が変だったらしい。

 ストレートだけど、球が垂れてこなかったなぁ、と一人でボソボソ呟いていた。

                   ◇◇◇

 5回の表。うちのエースピッチャーが限界を迎えた。2回以降も1回ほどではないとはいえ、毎回失点して10-0になったところで、腕がもう痛いです、と監督に申告があってベンチに下がった。うちのチームには、他にピッチャーがいないらしく、裕太が緊急登板した。

 2アウト満塁。バッターは3打席連続でツーベースを放っているキャッチャーの人だった。

 絶体絶命 そんな場面だったが、点差が空いていたせいか、裕太は落ち着いていた。


 1球目 ストレートが真ん中に決まってストライク。 バッターは球筋を見るように見送ると満足そうに頷いた。


 2球目 ストレートがわずかに外れてボール。 バッターは見送った後余裕そうな表情をしていた。


 3球目 遅いボールがコーナーギリギリに。持ち玉にカーブがあると思っていなかったのか、バッターは派手に空振った。


 4球目 またもや、コーナーギリギリに、今度はストレートを投げたが、カットされる。カーブを頭に置いている状態で、ウイニングショットの直球をカットするというのは、相手の実力が本物である事を物語っていた。


 しかし、裕太はマウンドに立つのが初めてにもかかわらず、動じなかった。


 5球目 さっきより少し高いコースにストレートを投げた。甘いコースだった。キャッチャーもその甘い球を逃すものか、とフルスイングした。



「ストライク!バッターアウト」

「しゃっ!」

 しかし、裕太の球はバットには当たらず、空振り三振となった。

 みんな、何が起こったかわからなくて戸惑っていたが、本人は嬉しそうにガッツポーズをしていた。


ベンチに帰ってきた裕太に俺は訊ねる。

「なんで今、相手バッターは空振ったんだ?」

すると、裕太はニコニコしながら、

「今のは、スプリットっていう変化球で、バッターの手元で少し落ちる球種なんだ!中学校の時遊びで投げてたんだけど、まさか役立つとは思わなかったよ!」

と言った。


――――ここから、裕太の城北高校のエースへの道が始まったのだった。


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裕太、恐るべし!

ラブコメ要素皆無でごめんなさい!次の次の話から、復活するので、しばしお待ちください!



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