第116話 四六センチ砲咆哮
零式観測機の特攻によって射撃管制システムの枢要部を破壊され、半身不随とされた「モンタナ」級戦艦に対して「大和」と「武蔵」、それに「信濃」が四六センチ砲弾を次々に叩き込んでいく。
並みの戦艦であれば一〇発、強靭な戦艦でも一五発も撃ち込めば廃艦に追い込めるはずの四六センチ砲弾を二〇発近く被弾してなお反撃してくる「モンタナ」級戦艦はとてつもない防御力を兼ね備えたモンスター戦艦だ。
一方、「大和」と「武蔵」、それに「信濃」もまたほぼ同数の四〇センチ砲弾を食らっている。
メインの射撃指揮装置を破壊され、サブのそれで戦っているはずの「モンタナ」級戦艦が「大和」型戦艦と同じ命中弾数を得ているのだから、いかに米国の射撃管制システムが優れているのかはいやが上にも思い知らされる。
多数の四六センチ砲弾を浴びてなお屈しない「モンタナ」級戦艦の継戦能力、人間で言えばその体力は「大和」型戦艦と同等かあるいはそれ以上かもしれない。
そうなれば、与えた打撃あるいは受けたダメージの総量で勝負は決まる。
そして、相手に与える打撃においては四六センチ砲を装備する「大和」型戦艦のほうが四〇センチ砲を装備する「モンタナ」級戦艦よりも明らかに上だ。
いかに破格の大重量を誇る四〇センチSHSといえども、「大和」型戦艦が放つ四六センチ砲弾に比べれば二〇〇キロ以上も軽く、その破壊エネルギーは明らかに劣っている。
実際、最初は互角だった戦いは今では六分四分あるいは七分三分で三隻の「大和」型戦艦が押している。
その後方では「紀伊」と「尾張」、それに「駿河」と「近江」がそれぞれ「モンタナ」級四番艦と五番艦、それに「アイオワ」級一番艦ならびに二番艦と撃ち合っている。
「紀伊」と「尾張」、それに「駿河」と「近江」は当初、敵の八番艦と九番艦の位置にあった二隻の「サウスダコタ」級戦艦、米軍で言うところの「サウスダコタ」と「インディアナ」をそれぞれ二隻がかりで攻撃し、これを短時間のうちに戦闘不能に陥れた。
「サウスダコタ」級戦艦は攻防に優れた戦艦だが、それでも「大和」型戦艦とは階級が違い過ぎた。
そのうえ二隻がかりで攻撃されてはたまったものではない。
二隻の「サウスダコタ」級戦艦の沈黙を確認した「紀伊」と「尾張」、それに「駿河」と「近江」の四隻はすぐに目標を手負いの「モンタナ」級四番艦と五番艦、それに「アイオワ」級一番艦と二番艦に切り替える。
だが、強敵相手に出遅れた感は否めず、命中弾を得る前に被弾とそれに伴うダメージを蓄積していった。
そこへ、苦戦する仲間にエールを送るかのように敵の四番艦と六番艦に巨大な水柱が立ち上る。
「五十鈴」と「北上」が放った九三式六一センチ酸素魚雷が「モンタナ」級四番艦と「アイオワ」級一番艦の横腹をえぐったのだ。
八〇本発射して二本しか命中しなかったのだから、命中率は二・五パーセントであり、これは惨憺たる成績といって差し支えない。
だが、この状況ではその持つ意味が、重みが全然違ってくる。
航空魚雷の三倍近い重量を持つ九三式酸素魚雷は一発でも被雷したら大損害は免れず、戦艦といえども大量の浸水をきたして速力も衰える。
当然のことながら艦の水平もまた大きく損なわれる。
そのことを素早く見て取った「紀伊」は「モンタナ」級五番艦に、「駿河」は「アイオワ」級二番艦にそれぞれ目標を切り替える。
「モンタナ」級四番艦と「アイオワ」級一番艦は今しばらくは戦力足りえない。
その間に「モンタナ」級五番艦を「紀伊」と「尾張」が、「アイオワ」級二番艦を「駿河」と「近江」が二隻がかりで袋叩きにしてしまうのだ。
その頃には皮や肉を散々に切り刻まれた「大和」と「武蔵」、それに「信濃」も「モンタナ」級戦艦の一番艦と二番艦、それに三番艦の骨を四六センチ砲弾の大破壊力をもってすべて叩き折っている。
零式観測機の特攻という非情極まりない手段を用いはしたものの、それでも「大和」型七姉妹の長女と次女、それに三女は「モンタナ」級との一騎打ちを制した。
その三姉妹は休む間もなく苦戦する四女と五女、それに六女と七女の助太刀にはせ参じる。
圧倒的不利な状況のなか、それでも必死の反撃を試みる「モンタナ」級四番艦と五番艦、それに「アイオワ」級一番艦と二番艦。
だがしかし、すでに大勢は決した。
七隻の「大和」型戦艦の魔手から、六三門の四六センチ砲から逃れる術は無かった。
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