第110話 護衛全滅
四〇〇機にも及ぶ米艦上機群がこちらに向かっているという報告を受けた時、第三艦隊司令長官の草鹿中将は一切の逡巡を見せず、すべての零戦をもってこれを迎撃するよう命じた。
出撃したのは「飛龍」と「蒼龍」からそれぞれ三六機、「瑞鳳」と「祥鳳」、それに「千歳」と「千代田」からそれぞれ二四機の合わせて一六八機。
一方、ハルゼー提督が第一次攻撃隊として送り込んだのは一一隻の「エセックス」級空母からそれぞれ三個中隊の合わせて三九六機のF6Fヘルキャット戦闘機。
もちろん、これら機体は零戦の撃滅、つまりはファイタースイープの任を負っていた。
日米双方の戦闘機が第三艦隊の前方を行く第一艦隊の上空で激突する。
数に勝るF6Fの搭乗員らは狡猾だった。
零戦は二機を最小戦闘単位としているが、これまで一番機のほうは熟練かあるいは中堅搭乗員なのに対し、二番機のほうはたいていの場合が若年搭乗員だった。
つまり経験者が未経験者あるいは経験の浅い者を引っ張る。
しかし現在、帝国海軍母艦航空隊では熟練や中堅搭乗員が払底しており、若年搭乗員で員数合わせをせざるを得ないという苦しい事情があった。
そして、今では多少マシな技量を持つ若年搭乗員が一番機を務め、さらに未熟な若年搭乗員がそれに従うという、若年ペアが主流となっている。
逆に米側から見れば一番機さえ潰せば、あるいはそれを引き離しさえすれば二番機の料理は簡単だということだ。
そのようなこともあって、F6Fは二機あるいは四機がかりで真っ先に一番機の零戦に襲いかかる。
一番機の零戦はF6Fに勝る旋回性能によって射弾を回避するが、その機動についていけない二番機は置いてきぼりを食う。
編隊を維持出来ない単機の若年搭乗員は空の戦いにおいてはいいカモだ。
当然ながら熟練と違って視野も狭い。
そこを他のF6Fに突かれ、二番機は次々に撃墜されていく。
一番機の搭乗員は二番機を守りたいとは思うものの、一方で自身の生存のための戦いに忙殺されて助けることが出来ない。
そこへ第二次攻撃隊が姿を現す。
一一隻の「エセックス」級空母からそれぞれ一個中隊のSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機とTBFアベンジャー雷撃機、同じく一個中隊の護衛のF6Fの合わせて三九六機の編隊は水上打撃部隊の第一艦隊を素通りし、後方の第三艦隊に襲いかかった。
まず、一三二機のSB2Cが中隊ごとに分かれて空母の外周を守る一一隻の「松」型駆逐艦に急降下爆撃を仕掛ける。
「松」型駆逐艦のほうも三門の一二・七センチ高角砲や三〇丁近くに及ぶ二五ミリ機銃で必死の防戦を図るが、この程度の火力では一機か多くてもせいぜい二機を撃墜するのが精いっぱいで、むしろ一機も落とせなかった艦のほうが多いくらいだった。
SB2Cが投下する一〇〇〇ポンド爆弾の威力は強烈だ。
「松」型駆逐艦であれば一発で戦闘力や機動力を大幅に減殺され、二発食らえば戦闘不能か下手をすれば沈没、三発以上食らえばまず助からない。
そのうえ威力が大きい一〇〇〇ポンドクラスの爆弾であれば、至近弾でさえも船殻の薄い駆逐艦にとっては剣呑な存在となる。
場合によっては船体に亀裂が生じたり、時には破孔を穿たれたりすることさえあった。
だから、「松」型駆逐艦は必死で爆弾を回避しようと努める。
だが、その脚は二七ノットと遅く、狙う側からすれば比較的命中させやすい駆逐艦だった。
そのうえ、日本軍の搭乗員とは違い、SB2Cの搭乗員らは訓練用の弾薬や燃料をそれこそ湯水のように使って訓練してきたのでその練度は高い。
SB2Cは「松」型駆逐艦の回避運動を嘲笑うかのように一〇〇〇ポンド爆弾を次々に投じていく。
狙われた一一隻の「松」型駆逐艦はそのいずれもが一〇発以上の爆弾を上空から浴びせかけられる。
全弾回避出来た艦は一隻も無く、最も少ない艦で一発、多い艦は二発三発と食らってしまう。
それらはいずれも猛煙を上げて洋上停止する。
なかには海面下に没しはじめているものさえあった。
六隻の空母を守る護衛艦が失われる中、今度は魚雷を抱え込んだ一三二機のTBFが突撃態勢に移行した。
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