第101話 護衛空母
第三・一任務群と第三・二任務群の二つの水上打撃部隊、それに第三・三任務群ならびに第三・四任務群と第三・五任務群の三つの機動部隊のほかに第三艦隊は第三・七任務群という護衛空母部隊を保有していた。
「ボーグ」級やあるいは「カサブランカ」級といった護衛空母が二四隻にそれらを護衛する駆逐艦が四八隻の合わせて七二隻からなる大所帯任務群だ。
戦闘機や雷撃機など、各種航空機六四八機を運用するそれらは六群に分かれて展開しており、船団護衛や上陸支援のほかに機動部隊に対する航空機補充部隊としての役割も担っている。
実際、沖縄や台湾における航空戦で機動部隊が損耗した機体は第三・七任務群の護衛空母が搭載する機体をもってその補充にあてていた。
このことで、最初は六四八機あった第三・七任務群の機体も現在では四〇〇機を割り込んでおり、こちらもまた後方に下がって機体や燃料、それに各種物資の補給をしたいところではあった。
だがしかし、第三・七任務群司令官は第三艦隊司令長官のハルゼー提督より可動全戦力をもって日本艦隊を叩くよう命じられる。
驚くべきことに、圧倒的な戦力を誇っていたはずの友軍機動部隊や水上打撃部隊の阻止線を突破して日本艦隊がレイテ湾に向けて進撃しているというのだ。
第三・七任務群司令官が聞いたところでは、ハルゼー提督が直率する機動部隊は日本軍の零戦によるスーサイドアタックによって大打撃を受け、水上打撃部隊は四隻の「アイオワ」級戦艦ならびに二隻の「サウスダコタ」級戦艦を一挙に失うという信じられない大損害を被ったのだという。
頼みの水上打撃部隊や機動部隊が半身不随となった以上、レイテ湾の上陸船団ならびに上陸部隊を守ることが出来るのは、四隻の「エセックス」級空母に残ったわずかな機体を除けば第三・七任務群を置いてほかには無い。
もちろん、このようなことは一応は事前想定に盛り込んでいたものの、それでも第三・七任務群司令官からすれば保険にかける保険のようなもので、万に一つ有るか無いかという認識でしかなかった。
だがしかし、その万に一つの悪夢が現実化したのだ。
第三・七任務群司令官は各護衛空母に戦闘機一個小隊を残し、残るすべての機体を準備が出来次第速やかに発進させるよう命じる。
F6Fヘルキャット戦闘機には燃料と銃弾を満載し、TBFアベンジャー雷撃機には魚雷を搭載させる。
TBFに手間のかかる魚雷を積み込むのは、指示された攻撃目標が「大和」型戦艦だからだ。
米海軍が誇る「アイオワ」級をもしのぐという「大和」型戦艦に有効なダメージを与えられるのは第三・七任務群の中では魚雷を装備したTBFだけだ。
第三・七任務群司令官は作業を急がせる。
日没までに攻撃を仕掛けないと戦果が挙がらないからだ。
悔しいが英国の雷撃機搭乗員のような夜間雷撃をこなせる手練れは第三・七任務群には数えるほどしかいない。
腕の立つ者は第三・三任務群や第三・四任務群、それに第三・五任務群といった戦闘部隊に優先的に配属されていた。
不幸中の幸いだったのは二四隻の護衛空母には合わせて八七機のTBFしか残っておらず、一隻あたり三乃至四機しかなかったことだ。
そのことで、すべての機体に対する魚雷の搭載作業が思いのほか早く済んだ。
これに一九九機のF6Fが護衛にあたる。
日本の機動部隊にはまだ六隻の空母が無傷で残っているものの、だがしかし友軍機動部隊との度重なる戦闘によってそれらに搭載されている艦上機は激減しているらしい。
それでも戦場では何が起こるか分からない。
実際、彼我の戦力差から圧倒的に有利だったはずの米軍が、今では護衛空母の搭載機を当てにしなければならないところまで追いつめられているのだ。
そんなことをつらつらと考えている第三・七任務群司令官のもとに航空参謀より出撃準備が整ったことが報告される。
「よし、すぐに出せ! 雷撃隊の目標は『大和』型戦艦のみだ。各空母群ごとに一隻ずつ狙わせろ。少数を撃沈するよりも多数を撃破するんだ。連中を追い払いさえすればこの戦い、我々の勝ちだ!」
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