第100話 戦果と損害

 第二艦隊ならびに米水上打撃部隊が干戈を交えた海域に角田長官率いる七隻の「大和」型戦艦が到達した。

 しかし、その頃には「サウスダコタ」級戦艦やあるいは米巡洋艦や米駆逐艦といった敵艦の姿は無く、そこにあったのは溺者救助やあるいは消火作業にあたっている傷だらけの友軍艦のみ。

 第二艦隊の屋台骨を支えていた「陸奥」と「金剛」それに「榛名」の三隻の戦艦はどこにも見当たらず、「長門」は鋼材の堆積場かあるいは廃墟かと思わせるような無残な姿をさらしていた。

 「長門」の艦橋は崩れ落ち、煙突は上半分が吹き飛んでしまっている。

 分厚い装甲を施したはずの四一センチ連装砲塔は叩き割られ、無事な副砲や高角砲、それに機銃はどこにも見当たらない。

 「長門」が艦としてその命が尽きていることは一目瞭然だった。


 「遅くなって済まない。そして感謝する」


 劣勢の中、それでも最後まで奮闘してくれた四隻の戦艦の将兵らを悼みつつ、角田長官は救援に間に合わなかったことを胸中で詫びるとともに感謝を捧げる。

 第二艦隊が「サウスダコタ」級戦艦を抑えてくれたおかげで「大和」をはじめとした第一艦隊の戦艦部隊は「アイオワ」級戦艦との戦いに専念することが出来た。

 激闘となった「アイオワ」級戦艦との戦いに、もし四隻の「サウスダコタ」級戦艦が乱入していたとしたら、七隻の「大和」型戦艦のうちの何隻かは撃沈の憂き目にあっていたかもしれない。


 角田長官は第一艦隊と第二艦隊、それに第三艦隊が挙げた戦果ならびに損害の報告をすでに受けている。

 第一艦隊は六隻あった「アイオワ」級戦艦のうち、その四隻までを撃沈しさらに二隻を撃破した。

 また、戦艦に準じたボリュームをもつ艦型不詳の大型艦をこちらは二隻ともに討ち取っている。

 また、巡洋艦戦隊ならびに水雷戦隊は敵巡洋艦一隻と駆逐艦六隻を撃沈、さらに十数隻を撃破する戦果を挙げた。


 一方、第二艦隊のほうは「サウスダコタ」級戦艦を二隻、さらに三隻の巡洋艦と五隻の駆逐艦を撃沈し一〇隻余を撃破したという。

 また、水上砲雷撃戦に先立って米機動部隊と洋上航空戦を展開した第三艦隊のほうからは特攻によって七隻の「エセックス」級空母を撃破、さらに三〇〇機以上の艦上機を撃墜したとの報告があがっている。


 間違いなく大戦果だが、しかしこちらが受けた被害も甚大だった。

 第一艦隊は七隻の「大和」型戦艦こそ沈没艦を出さずに済んだものの、一方で巡洋艦や駆逐艦のほうは大損害を被った。

 第七戦隊は米新型重巡との撃ち合いに敗れ、「鈴谷」と「最上」、それに「三隈」が撃沈され生き残ったのは「熊野」ただ一隻だけ。

 二倍の数の「クリーブランド」級軽巡を相手どった「利根」と「筑摩」はともに多数の一五・二センチ砲弾を浴びせられ「筑摩」は沈没、「利根」はかろうじて避退に成功したもののその傷は深い。

 二倍近い数の敵駆逐艦部隊に立ち向かった水雷戦隊のほうは重巡「衣笠」が撃沈され「青葉」が中破、さらに駆逐艦の半数近くを失うという大打撃を被った。


 第二艦隊のほうは「長門」と「陸奥」、それに「金剛」と「榛名」の四隻、つまりはすべての戦艦を撃沈され司令長官の宇垣中将もまた「長門」艦上で戦死した。

 巡洋艦や駆逐艦の被害は第一艦隊に比べればマシだが、それでも重巡「古鷹」と「加古」が敵駆逐艦部隊の集中攻撃を受けて沈没、三隻の友軍駆逐艦もまた同様に撃沈された。


 敵艦上機の空襲を受けた第三艦隊は「加賀」と「龍驤」、それに「日進」の三隻の空母を失い、さらに多数の艦上機を失った。

 第三艦隊司令長官の大西中将は「加賀」と運命を共にし、現在は第二航空戦隊司令官が同艦隊の指揮を引き継いでいる。


 どの艦隊も傷だらけだが、それでも状況は日本側にとって悪くはなかった。

 米側は満身創痍の「アイオワ」級戦艦とそれに深手を負った「サウスダコタ」級戦艦がそれぞれ二隻なのに対し、こちらは手負いとはいえすべての「大和」型戦艦が戦闘能力を残している。

 レイテ湾までの道中、七隻の「大和」型戦艦を阻止出来る戦力は米側には無いはずだ。

 戦況有利と判断した角田長官がレイテ湾への進撃を命じようとしたその瞬間、だがしかし電探操作員から悲鳴のような報告が上がってくる。


 「南方より大編隊接近。距離七〇浬。規模は二五〇から三〇〇機程度。米空母から発進した艦上機と思われます!」

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