第94話 質よりサイズ

 工業製品としての視点をもって「大和」型戦艦と「アイオワ」級戦艦を比較した場合、「大和」型戦艦の品質は「アイオワ」級のそれに遠く及ばない。

 装甲の質は明らかに「大和」型戦艦のほうが出来が悪いし、その建付けや接合技術もまた同様だ。

 艦体を構成する構造用鋼に至ってはまさに月とスッポン。

 ただ、こちらのほうは「アイオワ」級が贅沢過ぎるものを使っているという見方も出来ないことはない。

 ただ、それでも装甲としての機能も期待できる構造用鋼を採用しているというのは紛れもなく「アイオワ」級のアドバンテージだ。


 直接防御だけでなく、間接防御の差もまた大きい。

 応急指揮装置の性能やその数、さらにダメコン活動を担保するための電路や電話の抗堪性や冗長性、各種装置を動かすための発電機の信頼性や性能も大きな隔たりがある。

 部品一つとってもその品質や工作精度といった交差が小さいのは明らかに米側であり、さらに防錆や防塩、それに防水の技術も進んでいる。

 交換部品についても「アイオワ」級のほうはモジュール化やユニット化が進み、復旧作業の大きな助けとなっている。


 攻撃や索敵もまた同様だ。

 「アイオワ」級の砲弾の質は日本側のそれに比べて明らかに優越しており、発射速度も上回っている。

 射撃管制システムはこれも米側が進んでいるし、レーダーをはじめとした電測兵器は一枚も二枚も上手だ。

 近代戦に欠かせない通信機材の性能や信頼性もまた「アイオワ」級戦艦が明らかにリードしている。


 それにもかかわらず、「大和」型戦艦が「アイオワ」級戦艦を押しているのは観測機が使えることと、何より主砲口径が大きくて装甲が分厚いからだ。

 「アイオワ」級戦艦と「大和」型戦艦の戦いは、高品質の四万トン級戦艦と低品質の六万トン級戦艦の戦いと置き換えてもいい。

 そこから導かれるのは、帝国海軍の鉄砲屋たちが四六センチ砲搭載の六万トン級戦艦を選択したのは正しかったということだ。

 もし、仮に「大和」型戦艦が常識的な四〇センチ砲を搭載する四万トン級戦艦であったとしたら「アイオワ」級に勝つことは出来なかっただろう。

 科学分野にせよ工業分野にせよ、あらゆる技術において米国に後れを取っている日本は質よりも量、あるいは質よりも大きさで勝負せざるを得ない。

 その答えが「大和」型戦艦であり、帝国海軍の鉄砲屋たちの見識の正しさをその身をもって証明している。


 水中弾効果を期待し過ぎたために構造や強度に問題を抱える低品質な「大和」型戦艦の四六センチ砲弾は、しかしその大口径からもたらされる莫大な運動エネルギーと一トン半にも及ぶ大重量によって「アイオワ」級の高品質な装甲を次々に食い破る。

 一方、低品質ながらも十分な厚みを持つ「大和」型戦艦の装甲はぎりぎりのところで高品質な四〇センチ砲弾から重要区画を守り抜く。

 観測機が使えない不利があってなお「アイオワ」級戦艦は「大和」型戦艦と同等かあるいはそれ以上の命中弾を相手に注ぎ込むが、それらは非装甲区画や艦上構造物に損害を与えはしても、装甲を貫けないがゆえに決定打には程遠い。

 逆に、一発当たりの破壊力に勝る四六センチ砲弾は「アイオワ」級戦艦のバイタルパートに飛び込み甚大なダメージを与える。


 末妹の「近江」が真っ先に挙げた戦果に触発されたかのように、七姉妹の中で最も早く夾叉を得た「信濃」が「アイオワ」級三番艦に一〇発以上の砲弾を叩き込んで戦闘不能に陥れる。

 わずかに遅れて「大和」が長女の威厳とばかりに「アイオワ」級一番艦を叩き潰し、次女の「武蔵」と四女の「紀伊」もそれに続く。

 対峙する敵を討ち取った「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「紀伊」が目標艦の撃滅に手間取っている「尾張」と「駿河」を支援すべく砲身を「アイオワ」級五番艦ならびに六番艦に向ける。

 圧倒的な優勢。

 誰もが勝利を確信した瞬間、だがしかし見張りから絶叫のような報告が上がってくる。


 「小型艦多数、こちらに向かってきます。その動きから米駆逐艦の可能性大!」

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