第80話 大戦力

 本来であれば昨年一〇月頃に予定されていた作戦は、だがしかしマリアナ沖海戦で受けた傷があまりにも深かったために年明けまで延期されることになってしまった。

 だが、その三カ月という時間のおかげで第三艦隊の戦力はさらに厚みを増し、日本海軍のそれを大きく上回る艦艇や航空機を持つに至った。

 その第三艦隊はすでに征途についている。

 太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将はオアフ島にある司令部作戦室の壁に貼られている編成表に目をやる。

 第三艦隊に打ち勝てる戦力はこの時代、この世界において存在するはずがなかった。



 第三艦隊


 第三・一任務群

 戦艦「ニュージャージー」「アイオワ」「ミズーリ」「ウィスコンシン」「イリノイ」「ケンタッキー」

 大型巡洋艦「アラスカ」「グアム」

 重巡四、軽巡四、駆逐艦三二


 第三・二任務群

 戦艦「サウスダコタ」「インディアナ」「マサチューセッツ」「アラバマ」

 軽巡八、駆逐艦二四


 第三・三任務群

 「エセックス」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「フランクリン」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「サラトガ2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「レキシントン2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 軽巡二、駆逐艦一二


 第三・四任務群

 「バンカー・ヒル」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「タイコンデロガ」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「ヨークタウン2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「エンタープライズ2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 軽巡二、駆逐艦一二


 第三・五任務群

 「イントレピッド」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「ワスプ2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 「レンジャー2」(F6F七二、SB2C一八、TBF一二、夜戦型F6F四)

 軽巡二、駆逐艦一二


 第三・七任務群

 護衛空母二四、駆逐艦四八(各種航空機六四八機、六群に分かれて展開)



 マリアナ沖海戦に比べて主力艦だけでも「アイオワ」級戦艦が四隻に「エセックス」級空母が二隻も増えている。

 さらに「アラスカ」ならびに「グアム」という大型巡洋艦が加わっているが、これら二隻は三万トンに迫る排水量と三〇センチ砲九門を備え、巡洋艦というよりもむしろ巡洋戦艦とも言うべき有力軍艦で、そのうえ三三ノットの快速が発揮できた。

 だが、一方で「アラスカ」と「グアム」は新型戦艦と撃ち合うには明らかに攻撃力も防御力も不足しており、状況によっては排水量の近い旧式戦艦にすら後れを取ることもあり得た。

 使い勝手が悪い一方で建造費は高く、さらにそれに必要とされる資材もまた膨大だった。

 それゆえ「モンタナ」級戦艦建造促進のために一一隻の調達で打ち止めとなった「エセックス」級空母と同様に、六隻計画されていたのが二隻だけの建造となってしまったいわくつきの艦でもあった。


 編成表にはニミッツ長官がもっとも期待をかけた「モンタナ」級戦艦の文字は無い。

 一〇隻が計画されている「モンタナ」級戦艦のうち、第一陣となる五隻についてはすでに竣工しているのだが、しかしいずれの艦も慣熟訓練が始まったばかりで、とても実戦で使える状態ではなかった。

 それでも、一〇隻の新型戦艦と二隻の大型巡洋艦、それに一一隻の大型空母の戦力は圧倒的だ。


 一方の日本海軍は昨年のマリアナ沖海戦で受けたダメージから完全には立ち直っていないはずだ。

 特に航空戦備はそれが顕著で、空母に至っては一隻の増勢すらないことを掴んでいる。

 マル四計画で建造が進められているはずの「大和」型戦艦の五、六、七番艦についての情報は無いが、マーシャル沖海戦の反省から合衆国海軍上層部や太平洋艦隊司令部はすでにこれらが就役しているという前提で作戦計画に盛り込んでいる。

 しかし、もし仮に彼女らが戦場に出張ってきたとしても一〇隻の新型戦艦と一一〇〇機を超える空母艦上機、それに多数の巡洋艦や駆逐艦が協力すれば余裕で仕留めることが出来るはずだ。

 さらに、大型空母の撃沈や複数の「大和」型戦艦を撃破した実績を持つ潜水艦部隊もその多くがすでに展開を終え、日本艦隊を待ち構えている。


 「三度目の正直だな」


 ニミッツ長官は胸中でそう独り言ちる。

 太平洋艦隊司令長官に就任してからニミッツ長官はブリスベン沖海戦とマリアナ沖海戦を戦い、両海戦で多数の戦艦や空母を沈められるという失態を犯した。

 それでもニミッツ長官の首がつながっているのは、まがりなりにもブリスベンを守り抜き、そしてマリアナ攻略に成功したからだ。

 だからこそ、今回は戦略目標の達成だけではなく艦隊戦においても完勝をおさめたい。

 そして、第三艦隊はそれを可能とする戦力を擁している。

 その第三艦隊はまもなく作戦海域に到達するはずだった。

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