第77話 提督の選択
二隻の「アイオワ」級戦艦、それに四隻の「サウスダコタ」級戦艦の合わせて五四門にも及ぶ四〇センチ砲。
そこから放たれる超重量弾の洗礼を浴びてなお、さほどこたえた様子を見せずに砲撃を継続している四隻の「大和」型戦艦を前に第三・一任務群のリー提督は焦燥を覚えていた。
リー提督の当初ビジョンでは短時間のうちに四隻の「金剛」型戦艦を戦闘不能に陥れ、八対四の状態をつくる。
そして、すかさずダブルチームで「大和」型戦艦を叩くつもりだった。
しかし、「金剛」型戦艦の撃破に夢中になり過ぎたあまり、その側背を「大和」型四番艦に付け込まれた。
回避運動中の「ノースカロライナ」は至近距離から放たれた四六センチ砲弾によって装甲を撃ち抜かれ、弾火薬庫の誘爆によってあっさりと失われてしまう。
そのうえ、「金剛」型戦艦の始末を命じた「ワシントン」が逆に返り討ちにあってしまうという信じられないことまで起こっている。
思いもかけない二隻の「ノースカロライナ」級戦艦の脱落によってリー提督の目算は大いに狂い、現在は六対四の戦いとなっている。
戦況は何とも言い難い。
「大和」型戦艦が一発の命中弾を得る間に、射撃管制システムと発射速度で優位に立つこちらはその二倍あるいは三倍近い命中弾を彼女らに叩き込んでいる。
だが、一発当たりの破壊力は明らかに「大和」型が勝っている。
多数の超重量弾を浴びているはずの「大和」型戦艦はそのいずれもがさほど参っている様子を見せていないのに対し、こちらは一発でも四六センチ砲弾をもらえばそのダメージは甚大だ。
今のところ「ノースカロライナ」のように弾火薬庫を撃ち抜かれたり、あるいは機関部に致命的な損害を被った艦は無いが、しかしいつまでもそのような幸運が続く保証は無い。
そういった現状に危機感を抱いたリー提督は制空権を獲得している優位を生かすべく、「大和」型戦艦と距離を置いて戦うことを決意、第三・一任務群は加速して「大和」型戦艦を引き離しにかかる。
だが、「大和」型戦艦はこちらの動きに余裕で追随してくる。
少なくとも「サウスダコタ」級と同等以上の速度性能を持つことは疑いようが無い。
もちろん、三三ノットの快速を誇る「ニュージャージー」と「アイオワ」だけであれば「大和」型戦艦を引き離すことは余裕なのだが、さりとて「サウスダコタ」級を切り捨てるわけにもいかない。
戦闘継続か、あるいは第三・二任務群と合流して態勢を立て直すか、二者択一に悩むリー提督にさらなる凶報が飛び込んでくる。
日本の第二艦隊と戦闘状態に入っていた第三・二任務群の巡洋艦戦隊司令官からのものだった。
その巡洋艦戦隊司令官の報告によれば、第三・二任務群の戦艦部隊は日本の旧式戦艦部隊との撃ち合いに敗れ、戦艦「コロラド」に座乗していた第三・二任務群司令官以下司令部スタッフの安否は不明とのことだ。
現在は巡洋艦戦隊司令官が一時的に同任務群の指揮を引き継いでいるという。
一方の日本側も甚大なダメージを被っており、現在のところは溺者救助にあたっているとのことだった。
今のところ、これらがサイパン島の友軍上陸地点へ向かう様子は無いという。
ただ、巡洋艦戦隊司令官の話を聞く限り、生き残った「長門」と「陸奥」については火災も下火になっており、その気になればサイパン島へ進撃することは可能らしい。
もし、「長門」と「陸奥」がサイパン島へ向かうようなことがあれば、それを阻止できるのは上陸船団を守るわずかな数の巡洋艦と駆逐艦しかない。
万一、その最終防衛線を「長門」と「陸奥」に突破されるようなことがあれば、それはマリアナ攻略作戦が頓挫するだけにとどまらず、万単位の友軍将兵を失うことにもなりかねない。
諸情勢を総合的に判断したリー提督は「大和」型戦艦との戦闘を切り上げサイパン島の上陸地点へ急行するよう命令する。
まずは、何をおいてもサイパン島へ上陸した将兵たちの安全が優先される。
「問題はしつこく食い下がる四隻の『大和』型戦艦をどう引き剝がすかだが、さてどうしたものか・・・・・・」
逡巡するリー提督に、しかしレーダーオペレーターから喜色の交じった報告がもたらされる。
「北東八〇マイルに一〇〇機近い編隊探知、友軍機動部隊から発進した艦上機と思われます!」
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