第76話 殲滅の砲撃戦
第二艦隊司令長官の高橋中将は六隻の米旧式戦艦と戦う前に「長門」と「陸奥」、それに「山城」と「扶桑」は相手に対して有利、逆に「伊勢」と「日向」は少しばかり不利だと考えていた。
日米各戦艦の攻撃力や防御力、それに対戦相手との戦力差を勘案しての判断だ。
だがしかし、結果として彼の予想は悪い意味で少しばかり外れてしまう。
第二艦隊旗艦の「長門」は四〇センチ砲搭載戦艦、世間で言うところのビッグセブン同士による戦いで「コロラド」との真っ向勝負に勝利した。
「長門」と「コロラド」は同じ四〇センチ砲搭載戦艦にカテゴリーされている。
しかし、「長門」が最初から四〇センチ砲(実際は四一センチ)搭載戦艦として設計されていたのに対し、「コロラド」のほうはもともとは三六センチ砲搭載戦艦として完成する予定だったものを途中で設計変更して四〇センチ砲を搭載するようにしたものだから防御力あるいは艦としての基礎体力が違い過ぎた。
さらに「長門」は度重なる改装によって防御力を向上、その結果四万トン近くに達する巨艦となったから、排水量の差からみても「コロラド」よりも明らかに階級がワンランク上だった。
そして、その違いがそのまま両艦の明暗を分けることになった。
「陸奥」は格下相手に手こずりはしたものの、それでも「ニューメキシコ」級戦艦、実際のところはそのネームシップである「ニューメキシコ」を自慢の四一センチ砲で叩きのめした。
三六センチ砲搭載戦艦としては「キングジョージV」級という例外を除き、「テネシー」級と並んで最強の攻撃力を誇る「ニューメキシコ」も、さすがに格上の「陸奥」には及ばなかった。
一方、「ニューメキシコ」級戦艦の「ミシシッピー」ならびに「アイダホ」と撃ち合った「伊勢」と「日向」はともに健闘したものの、しかし地力の差を覆すまでには至らなかった。
制空権の無い中、それでもドイツから導入した射撃レーダーやあるいは技術支援を受けて改良された光学測距儀を十全に生かして「ミシシッピー」ならびに「アイダホ」に対して少なくない三六センチ砲弾を叩き込んだ。
しかし、「ミシシッピー」と「アイダホ」の分厚い装甲を撃ち抜くには至らず、逆に「ミシシッピー」と「アイダホ」の五〇口径の長砲身から繰り出される高初速の三六センチ砲弾は「伊勢」と「日向」の装甲を貫いていった。
「ミシシッピー」や「アイダホ」よりも先に限界を迎えた「伊勢」と「日向」は身を削られるようにしてその戦闘力を失い、そして力尽きた。
「ニューヨーク」級戦艦の「ニューヨーク」と対峙した「山城」は被害こそ大きかったもののこれとの戦いをかろうじて制した。
「ニューヨーク」に比べて当たり所に恵まれたこと、ある意味において運の良さこそが勝因だった。
逆に「扶桑」は不運にも「テキサス」の三六センチ砲弾によって第一砲塔直下を撃ち抜かれ弾火薬庫が爆発、マリアナ沖にその身を沈めた。
勝ち残った日米それぞれ三隻の戦艦は目標を変えて戦いを継続する。
ここで引けば日本側はマリアナを喪失し、逆に米側は上陸部隊が決定的な危機を迎える。
日米双方ともに戦闘を回避できる道理は無かった。
そのような中、「長門」は「ミシシッピー」、「陸奥」は「アイダホ」に四一センチ砲を指向し、「山城」は姉を手にかけた「テキサス」に狙いを定める。
「長門」と「陸奥」は「ミシシッピー」や「アイダホ」よりも傷が深かったものの、それでも艦としての階級、あるいは格ともいうべきものが明らかに上だった。
「ミシシッピー」と「アイダホ」は「長門」や「陸奥」が受けた傷に塩を塗り込むようにして三六センチ砲弾を見舞ってきたが、しかし重要区画の装甲をぶち破るには至らず、致命傷には程遠い。
逆に「長門」や「陸奥」が放つ四一センチ砲弾は「伊勢」や「日向」の三六センチ砲弾では撃ち抜くことが出来なかった「ミシシッピー」や「アイダホ」の装甲を食い破り艦内部でその爆発威力を解放する。
三六センチ砲弾によって多数の切り傷を刻まれた「長門」「陸奥」と、四一センチ砲弾によって内臓にまで達する深手を負った「ミシシッピー」「アイダホ」とでは受けるダメージの大きさが違った。
命中率は互角以上、そのうえ命中弾数では明らかに勝っていたはずの二隻の「ニューメキシコ」級戦艦も、やがては自艦が放つ三六センチ砲弾の五割増しの重量を持つ四一センチ砲弾の前に沈黙する。
一方、「テキサス」と戦っていた「山城」は戦前のダメージがたたり一方的な痛打を浴びる。
それでも必死の反撃で二発の命中弾を得たがそれが限界だった。
度重なる被害の蓄積によって被害応急の限界を迎えた「山城」は炎上する。
「山城」を仕留めた「テキサス」だったが、しかし彼女は日米一二隻の戦艦の中で最も悲惨な最期を迎える。
「ミシシッピー」ならびに「アイダホ」との撃ち合いに勝利した「長門」と「陸奥」が同艦を挟撃したからだ。
第二戦隊の僚艦である「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」を手にかけた米戦艦に対する生き残った将兵らの怒りは凄まじい。
「長門」と「陸奥」は「テキサス」に対して容赦の無い砲撃を継続する。
それは「テキサス」が完全に沈黙してなおしばらくの間止むことはなかった。
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