第43話 零戦vsP38
第三艦隊ならびに第四艦隊の八隻の空母から出撃した九六機の零戦と九〇機の九七艦攻は目標とした米機動部隊が位置するはずの海域の遥か手前で異形の戦闘機の迎撃を受けていた。
「発動機が二つ、米陸軍のP38か!」
前方遠くに見えたゴマ粒が次第に飛行機の形に変わるにつれ、目の良い零戦の搭乗員らはあっさりとその正体を見抜く。
左右に発動機があるから一般的な戦闘機ではない。
運動性能あるいは機動性を重視する戦闘機は一部の例外を除いてそのほとんどが単発だ。
なにより、B25やB26といった双発爆撃機でこちらを迎撃することなどあり得ないから、そうなってくるとあとは消去法だ。
米軍が双発の夜間戦闘機を開発中だという未確認情報もあるが、それでも現時点において太平洋戦域でその存在が確認されているものと言えばそれはP38しかない。
それに、正攻法を好む米軍が夜間戦闘機を昼間に使うような真似をするとも思えない。
米機動部隊が相手だから、てっきりF4Fワイルドキャット戦闘機の歓迎を受けるものだとばかり思い込んでいた零戦の搭乗員らは、しかしすぐに切り替えて九七艦攻を守るべく行動に出る。
P38は八〇機程度、こちらのほうがわずかに優勢だが決定的な差とも言えない。
二〇ミリ機関砲と四丁の一二・七ミリ機銃を命中率の高い機首に集中装備するP38は剣呑極まりない相手であり、特に正面戦闘は他の米戦闘機と同様にご法度とされている。
だから、本来であれば旋回して後方に回り込み、低空に追い立ててから始末するのが無難だ。
だが、零戦隊の後方には九七艦攻隊が控えている。
もし、ここで零戦がP38を躱せば、彼らはそのまま前方火力を持たない九七艦攻に殺到してその重武装をもってそれらをことごとく食いまくるだろう。
新型発動機の採用による向上した馬力の余裕をもって防弾装備を充実させた九七艦攻といえどもカウンターで二〇ミリ弾や一二・七ミリ弾を浴びせられてはさすがにもたない。
だから、不利は承知の上で零戦は正面戦闘を受けてたつ。
発砲は零戦のほうがわずかに早かった。
それは、P38の搭乗員らが自分たちがこのまま突っ込んでいけば零戦は機体を捻って射弾を回避し、その旋回性能を生かして自分たちの後方につけてくると考えていたからだ。
そして、そうなったらしめたものだ。
零戦を大きく上回る最高速度で彼らをぶっちぎり、そのまま九七艦攻まで一直線に向かって二〇ミリ弾や一二・七ミリ弾を盛大にぶちまけてやればいい。
もし、零戦が九七艦攻の盾となるのであれば、それはそれで構わない。
零戦は七・七ミリ機銃しかもっておらず、そのような貧弱な機銃弾であればよほど当たり所が悪くない限り致命傷にはならないはずだ。
そう考えていたP38の搭乗員らの目に、だがしかし零戦の両翼から意外なほどに太い火箭が自分たち目掛けて噴き伸びてくるのが映った。
P38の搭乗員たちは知らなかったが、帝国海軍母艦戦闘機隊はこの戦いから新型零戦あるいは二号零戦と呼ばれる三二型を投入しており、その機体が装備するのは陸軍が言うところのホ103、つまりはブローニング機銃の劣化コピー版だった。
本家より性能は劣るものの、それでも七・七ミリ弾より遥かに威力に勝る一二・七ミリ弾を、しかもカウンターで食らえばいかに頑丈な米戦闘機といえども無事では済まない。
たちまち十数機のP38が炎や煙を噴いて落伍、残った機体はあるものは旋回、またあるものは急降下によって難を逃れる。
一方、零戦隊のほうもワンテンポ遅れて射撃を開始したP38によって同じく十数機が被弾、その多くが爆散するかあるいは帰還不能のダメージを被っていた。
意図した形では無かったものの、零戦隊はP38を乱戦に持ち込むことが出来たことで護衛の任務を果たす。
一度に十数機もの零戦が火を噴いて墜ちていく姿にショックを受けながらも九七艦攻の搭乗員たちは決意も新たに敵機動部隊を目指す。
九七艦攻の搭乗員たちは分かっていた。
目の前で散っていった零戦はその身を盾に、命を賭して自分たちを守ってくれたことを。
だからこそ、抱えてきた魚雷を必ず米空母に命中させなければならなかった。
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