第42話 SBDドーントレス

 第一艦隊の「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「紀伊」の四隻の戦艦がTBFアベンジャー雷撃機によって複数の魚雷をその横腹に突き込まれていた頃、第一艦隊と第二艦隊の後方にあった第三艦隊と第四艦隊もまたそれぞれ二四機のSBDドーントレス急降下爆撃機からの襲撃を受けていた。


 第三艦隊も第四艦隊もそれぞれ一隻の重巡と八隻の駆逐艦が円を描くようにして四隻の空母の外周を守っていたが、その程度の数では濃密な対空弾幕を形成することなど出来ようはずもない。

 同じ輪形陣でも一隻の空母に多数の巡洋艦や駆逐艦を配している米国とのそれとは比べものにならないくらい日本のそれは貧弱なものだった。

 SBDはその薄い防御網を易々と突破、六機ずつの編隊に分かれそれぞれが目標とした空母に向けて急降下を開始する。


 第三艦隊と第四艦隊を攻撃した四八機のSBDの搭乗員は、そのいずれもが選び抜かれた腕利きのみで編成されていた。

 日本側は知らなかったが、彼らは爆撃訓練で高速なうえに回頭性能が高い「ヨークタウン」や「ホーネット」を相手にトレーニングを積んできている。

 特にバックマスター艦長が指揮する「ヨークタウン」は回避能力が極めて優れており、そんな標的を相手に訓練を続けたことでこれらSBDの搭乗員はめきめきと腕を上げ、合衆国海軍上層部は六機あれば最低でも一発は確実に命中させることが出来るとの確信を持つに至った。


 第三艦隊に向かってきたのは第一八任務部隊の「ヨークタウン」と「レンジャー」から発進した二四機だった。

 「ヨークタウン」隊が「加賀」と「赤城」、「レンジャー」隊が「龍驤」と「龍鳳」に襲いかかる。

 「加賀」が一二・七センチ高角砲弾を、「赤城」が一二センチ高角砲弾を次々に撃ち上げるがまるで命中しない。

 一方、SBDは何事もなかったかのようにそのまま急降下に移行、対する「加賀」や「赤城」は必死の回頭で爆弾を避けようとする。

 だが、全弾回避には至らない。

 「加賀」は艦中央部に一発、「赤城」は艦首と艦尾に合わせて二発の爆弾を食らい両艦ともに艦上機の離発着が不可能となってしまった。

 その頃には「龍驤」と「龍鳳」もまた「レンジャー」から発進したSBDの攻撃によって被弾、小型空母の中でも特に的が小さい「龍驤」は一発で済んだものの、「龍鳳」のほうは脚が遅いこともあって二発を被弾していた。

 両艦ともにただちに沈没に至るような状況ではなかったが、それでも「加賀」や「赤城」と同様、艦上機の離発着能力を喪失したことに変わりはなかった。


 一方、「ホーネット」隊と「ワスプ」隊に狙われた第四艦隊の空母も無事では済まなかった。

 「蒼龍」と「飛龍」はその持ち味である三四ノットオーバーの高速を飛ばして回避に努めたものの、手練れが駆るSBDの攻撃を完全にしのぎ切ることは出来ず、それぞれ一発を被弾した。

 「蒼龍」は飛行甲板中央に被弾して離発着が不可能になったが、「飛龍」のほうは右舷の高角砲を吹きとばされただけで済み、艦上機の離発着はなんとか可能であった。

 一方、「蒼龍」や「飛龍」に比べて脚が遅い「瑞鳳」と「祥鳳」はそれぞれ二発を被弾、両艦ともに飛行甲板を盛大に破壊され艦上機の運用能力を完全に奪われてしまった。


 不幸中の幸いだったのは、いずれの空母もマーシャル沖海戦で「加賀」と「赤城」が被弾した際の教訓が十分に採り入れられていたことだ。

 マーシャル沖海戦当時、「加賀」と「赤城」はSBDの急降下爆撃によって一発乃至二発を被弾した。

 両艦ともに三万トンを大きく超える巨艦だからあっさり沈没するようなことはなかったものの、しかし一方で消火に手こずり、「加賀」も「赤城」もかなり危険な状況にまで追いつめられてしまったことも事実だった。

 だから、現在では帝国海軍の艦艇はどの艦も応急指揮装置の充実や乗組員の被害応急訓練が十全に成されており、早い段階で火災を消し止めることが出来た。

 それでも八隻の空母のうち「飛龍」を除く七隻までが艦上機運用能力を喪失、日本の機動部隊は一気にその戦力を低下させてしまった。

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