第29話 インド洋

 スターリング湾から出撃した第二艦隊と第三艦隊は昭和一七年四月一日、インド洋に入った。

 第二艦隊と第三艦隊に与えられた命令はいくつかあるが、その中で最も重要なものがインド洋における制海権奪取とそのための敵戦力の排除。

 言葉を変えれば東洋艦隊の撃滅だ。



 第二艦隊

 重巡「愛宕」「高雄」「摩耶」「妙高」「羽黒」「那智」

 重巡「古鷹」

 駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」

 重巡「加古」

 駆逐艦「白露」「時雨」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」

 戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」 ※第一艦隊から応援


 第三艦隊

 「蒼龍」(零戦二四、九九艦攻三三)

 「飛龍」(零戦二四、九九艦攻三三)

 「龍驤」(零戦二四、九七艦攻九)

 「瑞鳳」(零戦二四、九六艦攻三)

 「祥鳳」(零戦二四、九六艦攻三)

 重巡「利根」「筑摩」

 駆逐艦「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」「秋雲」



 第二艦隊は第四戦隊の「高雄」型やあるいは第五戦隊の「妙高」型といった重巡洋艦を主力に編成されており、近藤中将がその指揮を執る。

 その第二艦隊は極めて有力な艦隊ではあったが、しかし一方でこれら艦では東洋艦隊に配備されている戦艦には太刀打ちできない。

 そこで、連合艦隊は第一艦隊から第二戦隊を抽出、第二艦隊に臨時編入している。

 その第二戦隊は三個小隊から成り、第一小隊は四一センチ砲を持つ「長門」と「陸奥」、第二小隊は三六センチ砲を一二門装備する「伊勢」と「日向」、第三小隊は同じく三六センチ砲を一二門装備する「山城」と「扶桑」だ。

 四隻の「大和」型戦艦を擁する第一戦隊は修理後の慣熟訓練で本土周辺から動けず、第三戦隊の「比叡」と「霧島」、それに「金剛」と「榛名」は増強著しい太平洋艦隊への備えとして第一戦隊が戦列復帰するまではインド洋に派遣することが出来ない。


 一方、南方作戦が予想以上に進捗したことで第二戦隊の六隻の戦艦は交代でオーバーホールをしていたから、すべての艦がインド洋作戦に投入可能だった。

 空母のほうは「加賀」と「赤城」が不参加だが、これはマーシャル沖海戦で被弾損傷した個所の修理が終わっていないからだ。

 造修施設の貧弱な日本において帝国海軍はまずは戦艦の修理を最優先とし、空母や巡洋艦は二の次とされた。

 このことで、本来であればとっくに修理が終わっているはずの「加賀」や「赤城」については、これを不参加とせざるを得なかった。

 ただ、その穴を少しでも埋めるために小型空母の「龍驤」と「瑞鳳」、それに新しく戦力に加わった「祥鳳」を臨時参加させており、これら艦には「加賀」や「赤城」搭乗員の一部が一時転属している。


 空母五隻に戦艦六隻、それに重巡一〇隻に駆逐艦二五隻からなる二つの艦隊はすでに戦闘態勢にあった。

 第三艦隊の「蒼龍」と「飛龍」からそれぞれ六機の九七艦攻が夜明け前に飛び立ち、さらに「龍驤」から八機、「瑞鳳」と「祥鳳」からそれぞれ二機の合わせて一二機がそれらに続き北西から南西に向けて索敵線を形成する。

 予想される東洋艦隊の戦力は戦艦が五隻に空母が三隻、それに数隻の巡洋艦と十数隻の駆逐艦。

 情報戦に長けた英国だから「大和」型戦艦やあるいは「加賀」や「赤城」といった有力空母が日本本土にあることはすでに掴んでいるはずだ。

 それでも東洋艦隊は戦力的には第二艦隊と第三艦隊を合わせたものに劣るが、その差は戦術で十分に補いがつく程度のものでもある。

 ならば、東洋艦隊は必ず第二艦隊と第三艦隊の前に現れる。

 英国経済の大動脈であるインド洋で日本の艦隊に好き勝手をさせるような真似は決して許さないはずだ。

 第二艦隊の近藤長官も、第三艦隊の小沢長官もそのことは十分に承知している。

 東南アジアとそれに太平洋で実戦経験を積んだ二人の提督に油断は無かった。

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