第25話 第三戦隊
巡洋艦や駆逐艦といった補助艦艇同士の戦いは日本側の勝利に終わった。
真っ先に戦いの火蓋を切ったのは、ともに速力に秀でた日本の水雷戦隊と米国の駆逐艦戦隊だった。
重巡「青葉」と同じく重巡「衣笠」に率いられた一六隻の駆逐艦は同じく一六隻の米駆逐艦と正面からぶつかり合う。
その戦いの中で決定的な働きをしたのは「青葉」と「衣笠」の二隻の重巡だった。
これまで帝国海軍では水雷戦隊の嚮導艦と言えば俗に五五〇〇トン型と呼ばれる軽巡か、さらに規模が小さいものであれば「天龍」や「龍田」それに「夕張」といった旧式小型軽巡がその任にあたる場合もあった。
大正期に「球磨」型ならびに「長良」型、それに「川内」型の三タイプ合わせて一四隻が建造された五五〇〇トン型軽巡は一四センチ砲を七門装備する、当時としてはそれなりの戦力を持つ有力艦ではあった。
しかし、その一方で前方投射火力が貧弱で防御力も低く、現代の水雷戦隊の斬り込み隊長役を任せるにはいささか戦力に不安があった。
だが、五五〇〇トン型に比べて二〇センチ砲四門という一枚も二枚も上手をいく前方投射火力を持った「青葉」と「衣笠」は近距離戦闘に至るまでに二〇センチ砲弾によってそれぞれ一隻の米駆逐艦を撃破する。
さらに二〇〇本にも及ぶ五三センチ酸素魚雷による先制飽和雷撃によってさらに五隻の米駆逐艦を撃沈破。
もちろん、二・五パーセントという低い命中率は極めて不満足な成績ではあったが、しかし一方で米駆逐艦部隊にとっては三割近い戦力を一挙に刈り取られることと同義だった。
九隻にまで撃ち減らされた米駆逐艦を「青葉」と「衣笠」、それに一六隻の駆逐艦は数の優位を生かして文字通り袋叩きにした。
一方、四隻の「ブルックリン」級軽巡と四隻の「最上」型重巡からなる第七戦隊の戦いは艦の性能が互角に近いこともあって一進一退の攻防が続いた。
日米八隻の巡洋艦はそのいずれもが致命傷こそ負っていないものの、艦上構造物を叩き壊され、船体にも少なくない穴を穿たれ、ともにグロッキー状態の様相を呈していた。
そこへ四隻の米戦艦を撃破した第三戦隊の「比叡」と「霧島」、それに「金剛」と「榛名」が乱入してくる。
戦意旺盛な第三戦隊司令官の角田少将は米戦艦の撃破だけでは飽き足らず、米巡洋艦にまでその触手を伸ばしてきたのだ。
四隻の「金剛」型戦艦から放たれる三六センチ砲弾の威力は圧倒的で、防御力に定評のある「ブルックリン」級軽巡の装甲を易々と貫き次々に死と破壊をもたらしていった。
「最上」型との戦いですでに満身創痍だった「ブルックリン」級軽巡は逃げることも出来ず、次々に三六センチ砲弾を浴びてマーシャルの海底へと沈んでいった。
さらに貪欲極まりない角田司令官は「蒼龍」と「飛龍」が撃破した米空母部隊の巡洋艦の撃滅を高須第一艦隊司令長官に具申する。
この海域からさほど遠くない場所に九隻の米重巡があり、そのいずれもが機関や船体に深刻なダメージを受けて速力が出せないはずだった。
第一艦隊のほうは米水上打撃部隊との決戦で第一戦隊や第七戦隊が少なくない損害を被ったが、一方で第三戦隊のほうは「比叡」と「金剛」が一五・二センチ砲弾をわずかに浴びただけでいずれの艦も十分な戦闘力を残している。
また、「青葉」と「衣笠」が率いる水雷戦隊も魚雷こそ撃ち尽くしてはいたが、深刻なダメージを抱えているものは皆無だ。
「追撃を許可する。ただし、深追いはするな」
高須長官のお墨付きを得た角田司令官は喜々として舳先を東へと向ける。
艦隊運動を身軽にするためにお供にするのは一個駆逐隊のみとした。
そして、日没直前に第三戦隊は米重巡群の捕捉に成功する。
三二門の三六センチ砲が動きの衰えた米重巡に向けて咆哮する。
それは残敵掃討というよりも一方的な蹂躙劇あるいは虐殺といったような、米側から見ればそれほどまでに悲惨極まりない戦いとなった。
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