南方作戦

第7話 開戦

 日ごとに日米関係が悪化する中、それでも平和を願う関係者らは両国の関係修復に必死の努力を続けていた。

 しかし、南部仏印進駐をはじめとする日本の振る舞いに強烈な不満を持つ米国は石油輸出の禁止という極めて厳しい措置をとる。

 一方、ハル・ノートをはじめとした米国の度重なる強圧的な態度に日本国民は激昂、米英討つべしという声が国内に急速に充満していく。

 戦争への大きな流れ、あるいは空気のようなものを押しとどめることは誰にも出来ず、東條内閣は一二月一日の御前会議において開戦を決定する。

 あるいは、井上中将のように堀悌吉や山本五十六といった日本の力を弁えている、あるいは米国の強大さを知悉している人材が帝国海軍で然るべきポジションについていれば結果は変わっていたかもしれないと嘆く者もいたが、所詮はたらればの話にしか過ぎない。


 そして、昭和一六年一二月八日、日本は米英をはじめとした連合国に対して宣戦を布告、その戦端を開いた。

 帝国海軍は資源確保のために南方作戦に艦隊戦力の過半を投入する一方で、太平洋艦隊が出撃した場合には最新鋭戦艦を含む主力の戦艦部隊がこれに対応することとしていた。



 全般作戦支援(太平洋艦隊邀撃部隊)

 第一艦隊基幹

 戦艦「大和」「武蔵」「信濃」「紀伊」

 戦艦「比叡」「霧島」「金剛」「榛名」

 重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」 ※第二艦隊から応援

 重巡「青葉」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」

 重巡「衣笠」

 駆逐艦「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」


 南方部隊本隊

 第二艦隊基幹

 戦艦「伊勢」「日向」 ※第一艦隊から応援

 重巡「高雄」「愛宕」

 駆逐艦「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」


 フィリピン空襲部隊

 第三艦隊基幹

 「加賀」(零戦三六、九七艦攻四五)

 「赤城」(零戦三六、九七艦攻二七)

 「蒼龍」(零戦三六、九七艦攻一八)

 「飛龍」(零戦三六、九七艦攻一八)

 重巡「利根」「筑摩」

 駆逐艦「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」「秋雲」


 フィリピン攻略部隊

 「龍驤」(九六艦戦一八、九六艦攻一五)

 「瑞鳳」(九六艦戦一八、九六艦攻九)

 戦艦「山城」「扶桑」 ※第一艦隊から応援

 重巡「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」

 重巡「加古」

 駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「白露」「時雨」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」


 マレー攻略部隊

 戦艦「長門」「陸奥」 ※第一艦隊から応援

 重巡「古鷹」

 駆逐艦「吹雪」「白雪」「初雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」


 グアム攻略部隊

 重巡「鳥海」「摩耶」

 駆逐艦「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」



 南方作戦に投入される連合艦隊の戦力は戦艦と空母がそれぞれ六隻、それに重巡が一二隻に駆逐艦五二隻からなる一大戦力に加え、海上護衛総隊からも多数の旧式軽巡や旧式駆逐艦が船団護衛や上陸支援などにあたる。


 フィリピンの米航空基地を空襲するのは台湾の基地航空隊ではなく第三艦隊の「加賀」と「赤城」、それに「蒼龍」と「飛龍」の四隻の空母艦上機隊だ。

 これは、台湾とフィリピンのイバならびにクラークフィールドを往復できるだけの脚を持つ戦闘機を帝国海軍が保有していないためだ。

 防弾装備の充実や武装の強化を施し、さらに栄や瑞星に比べて大飯食らいの金星を搭載した零戦の脚は決して短くはないが、かと言って長大でもない。

 また、基地航空隊で零戦を装備しているのはごく一部だけで、現在でも主流は九六艦戦だったし、台湾に配備されている三空や台南空といった戦闘機隊もまたその例に漏れなかった。

 ただ、陸上攻撃機のほうは九六陸攻がフィリピンとの往復が可能なので、こちらは敵戦闘機の活動が不活発になる夜間の攻撃を企図している。


 第三艦隊は在比米航空軍を撃滅した後は「龍驤」と「瑞鳳」にその任務を引き継ぎ、急ぎトラック島へ向かう。

 そこで、失われた艦上機を補充した後、第一艦隊とともにフィリピン救援に駆けつけてくるであろう太平洋艦隊に備える。

 だが、それも在比米航空軍を撃滅してからの話だ。

 フィリピンには新旧合わせて一五〇乃至二〇〇機程度の戦闘機が配備されていると予想されている。

 激戦は必至だった。

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